不安を抱えておける心を育む心理的支援ー自閉スペクトラム症児の不安症状に対し応用行動分析(ABA)と認知行動療法(CBT)を改変して介入する支援ー

 穏やかで真面目な性格で、様々な活動に取り組み、楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、お絵描きをすることが好きです。恐竜の絵を見ながら自分で描いた後に色塗りをして楽しんでいます。細かな部分まで上手に描くことができており、いつも「上手だね」と褒められニコニコとしています。他には、友達と一緒に挟みドッジボールをすることもあります。自分から仲間入りすることは難しいですが、指導員が「○○君(本児)も一緒にやる?」と声を掛けるとうなずいて一緒に遊び始めます。ボールをよく見ていて、横にサッとよけたり、しゃがんだりする等、ボールをかわすことが得意です。また、ボールを投げることも上手で、外野から内野の子を当てることができます。友達と話すことは少なめですが、遊びを通して友達との関わりを深めています。今後も本児の好きな遊びを通して友達との接点を増やしていき、友達と一緒に遊ぶ楽しさを感じてもらえるよう支援していきます。

 戸外活動では、公園や博物館、科学館等、様々な場所へ出掛け、楽しく過ごすことができています。公園では、様々な遊具に積極的にチャレンジし、楽しんでいます。縄梯子やネットを上ったり、ロープにつかまりながら斜めの壁を上ったり、クライミングのホールドにつかまりながら横に移動したりする等、身体の使い方が上手です。名古屋市科学館に出掛けた際には、展示されているもので遊ぶだけでなく、「どのように落ちてくるか見てみよう」等、添えられている説明文を読んでから実際に試してみたり、試した後に詳しい説明をじっくりと読んでいたりする姿も見られ、知的好奇心の高さを感じました。また、戸外活動中はグループ活動をしていますが、同じグループの子と離れることなく、ルールを守って過ごすことができています。途中で同じグループの子から「どこで遊びたい?」と尋ねられても、自分の意見を伝えることはあまりありませんが、いつもニコニコと相手のしたいことに合わせてくれており、仲良く過ごしています。今後も友達と一緒に遊ぶ機会を提供して友達との関係を深めていくとともに、自分の意見も少しずつ伝えられるよう支援していきます。

 運動エフェクトでは、どの種目にも真面目に取り組み、がんばっています。ドリブルの記録会では、繰り返しコツコツと取り組み、V字ドリブル100回を合格することができました。短縄では、安定したリズムで上手に跳ぶことができています。鉄棒の逆上がりでは、お腹を鉄棒に引きつける動きが上手で、何度も連続で成功することができています。友達から拍手をたくさんもらい、とても嬉しそうにしていました。長縄では、縄に入るタイミングをつかむことが上手で、前の子との間を空けずに入ることができています。集団遊びでは、ルールを守り、楽しく遊ぶことができています。高鬼では、鬼の動きを見ながら別の島(安全地帯)へサッと移動することが得意で、楽しんでいます。しっぽ踏みでは、積極的に攻めて相手のしっぽを取ることができ、よく優勝しています。挟みドッジボールでは、「年上の子とやりたい」と自ら希望し、がんばっています。ボールをよける動きが上手で、勝ち抜き戦で最後まで内野に残っていることが多くあり、嬉しそうにしています。今後も本児の得意な面をさらに伸ばし、自己肯定感を高めていきます。

 学習の面では、切り替えが早く、集中して取り組むことができています。公文をがんばっていて、予め決めた枚数以上に取り組むこともあり、意欲的に取り組んでいます。また、「(持って帰って)お母さんに見せたい」と言うこともあり、がんばっています。今後も、少しずつ学習を進め、できることが増えていくよう支援していきます。

 気になる点は、不安が大きく、不適応を起こしてしまっている点です。少し先の就学を見据え、心理的支援を実施することにより不安を抱えておける心を育み、現在の状態が改善されるようはたらきかけていきます。本支援計画では、自閉スペクトラム症の不安症状に対する概要、有効な技法、本児への介入方法についてお伝えします。

 まず、自閉スペクトラム症、及び自閉スペクトラム症児の不安症状に対する概要についてお伝えします。自閉症は、その基盤に脳機能の問題の存在が強く推定される発達障がいとして位置づけられていて、その原因を親の子育てに求めることは否定されています(夏堀,2001)。また、児童の不安障がいの診断基準に関して、DSM-IV-TRにおいては、基本的に成人の診断基準がそのまま使用されていますが、実際には成人とは異なる特徴を持つと考えられています。アメリカ児童青年精神医学会(AACAP,1997)は、①全般性不安障がい(過剰不安障がい)、②社会恐怖、③分離不安障がい、④パニック障がい、⑤特定の恐怖症、⑥強迫性障がい、⑦外傷性ストレス障がい(PTSD)を児童の不安障がいとして取り上げています。また、児童の場合、それぞれの不安障がいごとに症状を捉えるという考え方とともに、不安障がい全体として問題を捉える必要もあります。なぜならば、児童の場合、不安症状の合併、併発の問題を考慮せざるをえないからです(Kendall,et al.,2000; Schniering,et al.,2000)。また、近年、日本において不安障がいという言葉を耳にするようになりましたが、それらはあくまで成人のクライエントの問題を指していることがほとんどです。欧米諸国では、児童の不安障がいは有病率の高い問題として取り上げられているにもかかわらず、日本においては現象の記述に終始している報告が多くみられます。成人を中心に発展した理論が子どもにも適応できるかは、実証的に検討しなければならない課題です(石川他,2003)。Schniering, et al.(2000)は、レビューの中で、特に分離不安障がい、社会恐怖、全般性不安障がい(過剰不安障がい)の3つは鑑別することが困難であると指摘しています。児童期においては、分離不安障がい、全般性不安障がいといった障がいは有病率が高くなっています。DSM-IV-TRにおける分離不安障がいの説明によれば、分離不安障がいの基本的特徴は、家や愛着をもつ人物からの分離に対する過剰な不安です。この障がいのある者は、家庭または愛着をもっている重要人物からの分離に際して過剰な苦痛を反復経験するかもしれないこと、またこの障がいをもつ子どもは、家またはその慣れた場所から離れて一人で出かける際に不安になったり、家に一人でいることができなかったりするかもしれないとしています。また就寝時に問題があり、自分が眠りにつくまで誰かが側にいるようにと主張することがあります(Schniering, et al.,2000)。また、不安の度合いは様々ですが、ASD児の11~84%に不安障がいや不安症状を伴うことが指摘されています(White et al. 2009)。不安に関する先行研究の多くは、成人を中心として検討が行われていますが、若年層を対象とした不安障がいの先行研究や自閉症児を対象とした先行研究は少ないのが現状です(渡邊他,2014)。また、広汎性発達障がい児は、不安に関する問題を有していると述べています。中でもアスペルガー障がいや高機能自閉症の子どもたちは、知的な問題が顕在化しにくいことから周囲に気づかれず、特別な支援がないまま見過ごされていることが多いと言われています。就学後に集団活動や対人関係での不適応など、様々な問題を呈して、初めてその障がいの存在が認識されることも珍しくありません。広汎性発達障がい児は、社会性の障がいを中核に抱えているため、集団内で不適応を起こしやすい。その結果、失敗体験や罰刺激が増加し、学習への動機づけの低下や反社会的行動の増加もしくは過度に抑制的になるなど、二次障がいとして様々な症状や問題行動を呈しやすいと言われています。また、広汎性発達障がい児は不安に関連する問題が多く、それらにより社会的機能がさらに障がいされている可能性があるとされています(川端他,2011)。また、幼稚園児や小学校低学年の子どもが登校をしぶる場合は、母子分離不安が大きな要因と言われています。低学年での不登校の場合に、発達障がいを考慮する必要があります。ASDの子どもの場合は、不登校傾向が現れる前にすでに学校での不適応がみられます。学校に行きたくないという訴えは、直接表明型と間接表現型に分かれます。前者は、対人関係のトラブルから生じることが多く、後者は、身体化、精神症状化を通じて表現されます。何が問題か自分ではよくわからないことが多く、本人が言えるのは些細なことでしかなかったりします。学校に行ったら比較的楽しそうにしている場合もあるが続かない。授業は受けられないが、学校の行事やクラブ活動には行きたがるなどの特徴があります(山下,2015)。また、ASDの不登校への支援として、ASDの子どもは、学校でのストレッサーに対して回避的な反応をしやすいため、不登校の原因となっているであろう問題について、学校と検討し、環境調整をする必要があります(山下,2015)。また、ASDの子どもが不安や抑うつを併発する症例は決して稀なものではなく、後に顕在化する可能性もあることを踏まえると、二次障がいの改善に向けて早期に予防的介入を行うことが重要な課題です(桐山他,2014)。ASDの子どもにおける二次障がいのうち、最も頻繁に見られるものが不安障がいです(桐山他,2014)。また、子どもへの援助においても、先ず、親自身の不安に共感し心労を軽減することが大切です(井出・清水,1997)。子どもの不安や恐怖のうしろには母親の「しんどさ」があり、母親を支えていくことが重要です(村上,1997)。広汎性発達障がい児の不安感について、保護者の不安感と子どもの不安感には正の相関があります(滝・東條,2013)。自閉症スペクトラム障がい児が持っている不安感と母親が抱えている不安感は、連動していて密接な関係があると考えられます(渡邊他,2014)。このように、母親と子どもの不安感は互いに相関していることから、母親の感じる不安感やストレスを明らかにして早期に支援していくことで、子どもに対しても不安を与えない支援のあり方を検討していくことが重要です(渡邊他,2014)。しかし、保護者自身の不安の大きさが子どもの不安症状にもたらす影響が示唆されているものの、その場合の具体的な調整効果や媒介効果は明らかにされていません(桐山他,2014)。また、就学は、親にとっても子どもにとっても、緊張してストレスが高まる時期です。知的に問題の無い自閉症スペクトラム障がい児の場合、周りの人に理解されないことが多く、集団内での不適応を起こしてしまうことが多くみられます(渡邊他,2014)。

 そこで、今回、お母さまがどのくらい不安を感じているかを測定するために、二つの心理検査を受けていただきました。1つはSTAIという検査で、状態不安と特性不安を測定しました。状態不安尺度では、お母さまが今まさに不安を感じているかを評価しました。また、特性不安尺度では、普段一般的に不安を感じているかを測定しました。この検査では、状態不安及び特性不安の何れについても、不安を強く感じているわけではないという結果となりました。もう1つは、YG性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)という検査で、情緒の安定・不安定を測定しました。このYG性格検査の情緒安定次元に含まれる尺度得点は、STAIの特性不安と有意な正の相関関係を示すため、STAIの結果の妥当性を把握することに役立ちます。結果は、情緒安定尺度の抑うつ性尺度、気分の変化尺度、劣等感尺度について、安定という評価となりました。従って、今回の二つの検査では、お母さまが不安を強く感じているとは言えず、お母さまの不安が本児に連動していることはないという結果となりました。

 ここまでの概要をまとめると、自閉症の原因は脳機能の問題であり、その原因を子育てに求めることは否定されています。また、児童期は、分離不安障がい、全般性不安障がいの症状が多いとされていますが、児童の不安障がいは成人と異なる特徴を持っているため、成人の不安障がいに対する理論を子どもにも適応できるかどうかは、まだ分かっていません。児童期においては、分離不安障がい、全般性不安障がいといった障がいは有病率が高くなっています。分離不安障がい、社会恐怖、全般性不安障がい(過剰不安障がい)の3つは鑑別することが困難であると指摘されています。アメリカ児童青年精神医学会(AACAP,1997)は、児童の場合はそれぞれの不安障がいごとに症状を捉えるという考え方とともに、不安障がい全体として問題を捉える必要があるとしています。また、自閉症の二次障がいで最も多いのが不安障がいで、自閉症の11~84%は不安障がいを伴い、アスペルガー障がいは二次障がいの可能性が高いとされており、早期介入が重要とされています。幼稚園児や小学校低学年の子どもが登校をしぶる場合は、母子分離不安が大きな要因と言われています。ASDの子どもの場合は、不登校傾向が現れる前にすでに学校での不適応がみられます。また、就学はストレスが高まる時期で不適応を起こしやすいとされており、対応法としては、環境調整が有効であるとされています。また、自閉症の不安感は母親の抱える不安と連動しているため、母親を支えていくことが重要となります。

 次に、有効な技法についてお伝えします。ASDの子どもに対する介入法として、障がいの中核症状に焦点を当てたABA(応用行動分析)やその関連技法が有益であるとされています。また、社会性の困難さに直面することで、不安や抑うつなどの心理的問題が併発する可能性が指摘されていますが、CBT(認知行動療法)の実施による改善の効果が報告されています(桐山他,2014)。また、ASD児の不安障がいに対して認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy)を行った研究では、waiting listのASD児群と比較して、介入を行ったASD児群では、保護者、対象児、教師すべてから症状の改善が報告され、ASD児の不安に対するCBTの有効性が示唆されています(Chalfant et al.2006; Sze & Wood 2008; Scarpa & Reyes 2011)。また、ASDの捉え方の独特さやこだわり、認知の偏りを考慮した介入を行う必要があります。ASD児を対象にCBTを行う場合は、ASD児の認知、行動特性を考慮にいれ改変したCBTを適応する必要があります。ASD児の不安障がいのモデルには、社会、環境要因、柔軟性のない思考と情動処理の困難さ、感覚過敏の3つの要因が不確かさへの非寛容性を経ることによって、不安や限局された行動、常同行動につながるモデル(Boulter et al. 2014)や情動調節の障がいがASDの不安のリスクファクターであることを提唱するモデル(White et al. 2014)が示されています。ASD児の不安の背景には、ASDの中核的な障がいに加えて、不確かさへの非寛容性やASD児を取り巻く環境や社会的要因が関連しているため、ASD児の不安を軽減する指導支援方法について検討する必要があります(濱田他,2015)。上記をまとめると、ASD児及び不安症状への介入は、応用行動分析(ABA)と認知行動療法(CBT)が有効であるとされています。また、ASD児を対象にCBTを行う場合は、ASD児の認知、行動特性を考慮にいれ改変したCBTを適応する必要があります。但し、認知行動療法は、認知が発達していない子どもへの介入は限界があることを認識しておく必要があります。

 最後に、介入方法についてお伝えします。以下、A児に実施した介入例を記述します。「A児は、12月のマラソン大会に向け、昼休みに持久走の練習をすることになった。A児は、予定外のスケジュールに、混乱し登校渋りが始まってしまった。今まで、A児に関しては、時間の構造化を図りながらスモールステップで進めてきたが、次々と入ってくる予定外の行事についていくことができず、不安感が高まってしまったと考えられる。母親との面談中、面談室に入って来ることもあったが、あと20分で終わるよと時間を知らせるとA児は納得した」A児にとって時間の構造化を図ることは、先の見通しを立てる上で効果的でした。不安は、予測のつかないことに対して起こるため、スケジュールを前もって提示することが必要です。時間の構造化は、A児にとって有効な手立てとなりました。例えば、一日のスケジュールを明確にすることで時間の構造化を図る。また、個別に声掛けをする、連絡事項は文書にして提示するなど視覚の構造化も実施する。このように接した先生に対してA児は安心感を持つことができ、通常のクラスで過ごす時間が増えていきました。担任の先生や信頼できる介助の先生の支援により、安心感を得ることができたと考えられます。聞き取り調査では、信頼できる人が側にいるかどうかということが、A児にとって極めて重要であることが分かりました(渡邊他,2014)。また、不安になる出来事が生じる場合には、事前にそのようなことが起きるということがわかっていれば、不安が軽減することも報告されており、ASD児にとって、一日や一週間の流れを事前に知らせておくことによって、学校生活において構えを形成すること、不安に対して事前に対処することが可能であると考えられます(濱田他,2015)。A児の例より、自閉症児は予定外のスケジュールが苦手で柔軟に対応することに困り感が生じますが、時間の構造化を図り、先の見通しを立てられるようにする、個別に声掛けをする、連絡事項は文書にして提示するなどの視覚的支援が有効です。また、安心感を持ってもらうためには信頼できる先生の存在が必要です。

 本児は、分離不安障がいと全般性不安障がいの両方の症状がありますが、社交不安症、限局性恐怖症、心的外傷後ストレス障がい等、他の症状に関する傾向はありません。本児は、母親との分離場面だけでなく、母親がいない場面(保育園から事業所へ行く時)でも同様の症状が現れており、愛着との分離に限定されていませんが、分離不安への対応に倣った対応が介入法の一例になると考えられます。分離不安への対応は、行動療法を使用することが推奨されており、以下の2つのポイントがあります。1つ目は、分離時間を短くすることです。分離時に可哀想だからといって時間をかけて分離するのではなく、心の傷をつくらないようサッと分離することが良いとされています。2つ目は、子どもの訴えに対し、感情的に対応しないことです。本児が「○○が嫌だから行きたくない」、「○○がやりたくないから行きたくない」と様々な理由を持ち出した場合、共感はしてもそれに過度に取り合わないようにします。自閉スペクトラム症は、後帯状回と内側前頭前野の統合機能が弱いとされており、これは不安症やパニック症と関係があるとされています。療育やトレーニング、環境整備は発達を促進し、日常生活における本人の困り感を解消するために有効とされています。したがって、以下の4つの観点を踏まえて支援を実施していきます。1点目は、不安を受け止められる心を育みます。子どもは誰でも不安になりますが通常のレベルを超えている場合は、心理療法的アプローチが必要となります。例えば、不潔恐怖症で手を洗いたい場合、好きなだけ洗えばよいという対応法では症状は悪化します。治療法は、段階的に敢えて本人が気になる程度の汚れに触れてもらい、その後、何も起きないことを学習してもらいます。つまり、本児に段階的に不安を感じる状況を体験してもらい、その後、何も起きないことを学習してもらいます(曝露反応妨害法)。段階的に不安に曝露(exposure)することが、反応の消去と刺激への馴化を促進します。一見ショック療法に見えますが、不安にすることが目的ではなく、不安なこともだんだん慣れてくることを体験することが目的です。介入は、非常にデリケートな対応を必要とするため、公認心理師が対応し、本児への影響性を考慮しながら進めていきます。人の不安は、10~15分で最大となり、不適切な安全確保行動(回避行動)が出現します。回避行動をとると急激に安心しますが、また起きるのではないかと不安が続き、完全に安心することはできません。しかし、人はどんな嫌な場面も永続的に不安を感じ続けることはできないため、概ね60~90分経つと最初の緊張レベルに戻り、自然に不安が消えるという状態になります。本児自身も自宅から教室まで20分ほどの時間を要しますが、教室に到着する頃には落ち着いており、戸外活動先に着く頃にはいつも通りの姿になっています。何故このような方針かというと、安心は不安がないということではなく、多少の不安はあっても大丈夫という状態であるからです。つまり、不安の解消を他者に依存していては、本児自身が不安を抱えていられるようにはなりません。よって、不安はあるけど大丈夫という心を形成するサポートをしていくことが重要です。2点目は、不安を受け止められる心の幅を拡げます。心の幅を拡げる解決策は、物理的近接性(接触)から心理的近接性(近傍性)へ移行させることです。近傍性は、あたかも接触しているかのような距離で、視覚的・接触的距離が混同します。「離れていても傍にいれば接触しているのと同じで大丈夫」という心の発達は、最終的には「母と一緒にいたいけど少し頑張れば母に会えるから母がいなくても大丈夫」に発展します。一方、心の幅を拡げる介入場面以外では、身体接触やこそぐり遊び等を通して本児に安心感を与えていきます。また、環境調整については、不安な状態で運動エフェクトに参加することが難しい本児に対し、落ち着いた状態で運動エフェクトに参加してもらうため、現在、通所時刻を早めています。通所時刻を早めてからは、運動エフェクトがスタートする頃には、気持ちを切り替えることができています。また、活動中は本児が活躍することができるよう配慮しています。切り替えに時間がかかった場合、運動に参加できないときも出てくると思いますが、抱っこしてもらったり寝転がったりするのではなく、体操座りで見学してもらいます(好子消失弱化)。これは、不登校で自宅にいるときに、ゲーム・youtube・TV・お菓子等を制限する手続きと同様の仕組みで、回避した状態が居心地の良いものにならないよう刺激を統制します。一方、母親に事業所まで送ってもらう、母親と一緒に事業所の活動に参加する等の近傍性は様子を見ています。介入後の本児の状態を確認していますが、今のところ母の近傍性が無くても症状は日々改善しています。3点目は、防衛機制に対し適切に対応します。介入中、一般的には、防衛機制がはたらきます。防衛機制とは、本人が対処不可能な場合、無意識に対処可能なものに置き換えることです。例えば、行き渋り時に「スポスタに行きたくないのは友達がいないから」、又は「○○君に会いたくないから保育園には行きたくない」等の理由をつけることです。これは防衛機制による仮の理由であり、根本的な不安心理への変化を起こさなければ状況は改善されません。4点目は、主治医の判断を定期的に確認します。本児への影響性を考慮しながら心理療法的アプローチを実施し、定期的に主治医の判断を仰ぐようにします。

 介入を行うにあたって、保護者が協力的であることも重要です。保護者が介入方針を理解し、エクスポージャーに協力的であったことから、対象者が不安な場面に対処する行動が促進された可能性が挙げられています。一方、効果指標で示された不安症状の改善が必ずしも現実場面における社会性の向上に結びつくとは言えないという点も指摘されています(Reaven et al.,2005)。例えば、社交不安症状そのものが改善していたとしても、社会的スキルが不足しているために、実際の対人関係が円滑にならない可能性があります。そのため、このような場合は不安の改善だけでなく、社会性の向上の双方を介入対象とすることが望ましいと考えられています(桐山他,2014)。したがって、本児に対しても、不安による症状の改善を目指す支援だけでなく、戸外活動等を通してソーシャルスキルを伸ばす支援も同時に実施していくことが重要です。

 本児は、運動が得意で年上の子と一緒のチームでドッジボールをする等、より高いレベルを求めて楽しそうに活動しています。今後も本児への影響性を考慮しながら心理的支援を継続し、不安を受け止められる心を育んでいきます。

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Juri F.