ADHD児に対する自尊感情向上のための支援について

 ADHDの発症率は1~6%で男子に多く、着色料との関係や、入眠の指令が健常より1.5時間程遅いなど、睡眠障害との関係が指摘されています。発症率は学齢期で3~7%、そのうちの30%は青年期に多動と不注意は目立たなくなり、40%は青年期以降も支障となる行動が持続し、残りの30%は感情障害やアルコール依存症などの重篤な精神障害が合併するとあります。ADHDは集中力がない、集団行動をとることができない、忘れ物が多い、トラブルが多い等の困り感を持つとされていますが、Alloway et al.(2014)は、ADHDのIQについて、簡単な記憶テストは標準以上レベル、ギフテッドと呼ばれる子どもと同じIQレベルのADHDの子も多く存在すると報告しています。また、Kooij et al.(2017)は、ギフテッドとADHDの違いはワーキングメモリであることを明らかにしています。今回は、自尊感情を持つことができないADHDについて考察します。

 ヘンリック・ホロエンコはADHD児の学童期について「学校に入ると、注意力や集中力の困難性が次第に明らかになり、周りにあわせて注意や行動を調整する能力に欠ける。学習面での困難性に加え交友関係もうまくいかず、その結果自尊心が低くなる(松本陽子・山崎由可里,2007)」と述べています。最近は、教育現場でもADHD児に対する認識が深まってきていますが、中には適切な配慮がなされることもなく、叱られてばかりで自分に自信を持つことができない子もいます。一方、Mari TANAKA(2003)は、「児童期のADHD児は、必ずしも自己評価が低いとはいえず、また、肯定的結果に対してはその原因を自分の特性に求めるといったその帰属スタイルを示し、『肯定的錯覚バイヤス』が示された(中略)これは同時に、自尊心の傷つきを防ぐための自己防衛としても機能している(松本・山崎,2007)」という意見もあります。

 幼児期の考え方として、素朴楽天主義というものがあります。幼児期はできないことが多く悲観的だと生きていくことができません。そのため、自分は何もしなくても自然に良くなると自己を肯定的に捉える傾向があります。この自信は、できないことにも積極的に挑戦する原動力になるので、とても大切な考え方です。ちなみに、この幼児期の考え方は児童期になると「がんばればできるようになる」と、できるようになるには努力と練習が必要だと考えるようになります。自分はできる、がんばればできると信じている幼児期・児童期に繰り返し挑戦し、「できた」という経験を積み重ねることは非常に重要です。弊所では、跳び箱や縄跳び等の練習において、がんばった所や良かった所を認めたり励ましたりし、たとえ上手くできなかったり失敗したりしても、子ども自身が「ここまでできた」「もう少しでできそうだ」と前向きに捉えられるようにし、次の挑戦への後押しをしています。

 自尊感情とは一般に「人が自分の自己概念と関連づける個人的価値観及び能力の感覚(松本・山崎,2007)」と定義されています。「自尊感情は、青年期において人格形成とともに成熟すると考えられ、わが国でもこの分野の青年期研究は盛んである。しかし、自己確立の中核をなすと考えられる自尊感情は、幼児期、学童期、青年期とそれぞれに発達的危機を迎える(松本・山崎,2007)」とされています。Erikson,E.H.は、アイデンティティの獲得にはクライシス(危機)、モラトリアム(猶予)、そして、自分で決めることが必要だと提唱しています。それぞれの成長過程に危機があり、その度に自己を捉え直し、一つを選び、他を捨てることで危機に対処することができます。モラトリアムは自分の進む道を決めるために自分と向き合う時間でアイデンティティの獲得に重要です。そして、自分の責任として納得して自らの道を選択します。自分自身と向き合うことで、外から与えられた自分、社会的に認められた自分、真の自分が重なる部分を見出すことでアイデンティティを獲得することができます。自己確立の中核をなす自尊感情はそれぞれの発達段階で発達的危機を迎えるため、危機に上手く対処し自己確立できるようそれぞれの段階で適切な支援を行うことが重要です。弊所はアイデンティティを確立する青年期まで通所することができますから、早い段階からどんな人になりたいかを思い描いてもらい、理想の自己に近付くことができるようにしていきます。また、それぞれの発達段階の危機に上手く対処することができるようサポートしていきます。

 自尊感情を形成する自己認知の側面として挙げられる「身体イメージ」、「家族」、「学業」、「願望」、「友だち」のうち、ADHD児は「学業」、「家族」、「友だち」の領域において自己評価が低かったという研究結果があります。これらのうち「学業」、「友だち」の2領域について、ADHD児の特徴及び支援方法を以下に述べます。

 まず、「学業」の領域に見られる特徴及び支援方法について述べます。松本・山崎(2007)は、「学業」において自己評価が低い理由について次のように述べています。

ADHDの主な障害である不注意と特に関係が深いと考えられる。つまり、注意散漫になりやすく授業に集中できないことで、知的な遅れがなくても学年が上がるにつれて課題についていけなくなり、学習の遅れが目立ってくるためと考えられる。さらに忘れ物をしたり、授業中に私語をしたり、学習の構えができにくく、学習に対する意欲を失っていくのではないかと思われる。また、文科省の調査でも明らかになったように、行動面で問題を抱える場合をADHD傾向があると考え、学習面で問題を抱える場合をLD傾向があると考えるとその合併率は高く、約半数の子どもがADHD傾向と同時にLD傾向も持っていることになる。(p.51)

松本・山崎(2007)は、ADHD児が「学業」の領域で自己評価が低い理由について、不注意により授業に集中できず学習の遅れが目立ったり、忘れ物や私語が多く学習の構えができにくかったりすることを挙げています。ADHD児は落ち着きがない、集中力がない、集団行動ができない、忘れ物が多い等、先生にあまり良い印象を持ってもらうことができません。席を立たないようがんばっても座っていることが当たり前のように捉えられ努力を評価されなかったり、先生から期待されることが少なかったりし、がんばる意欲をなくしてしまいます。弊所では、子ども達の持っている力を最大限伸ばすことができるよう支援しています。できないことや苦手なこと等のマイナス面ではなく、得意なことや改善したこと、がんばったこと、チャレンジしたこと等のプラス面に目を向け称賛しています。その際、他の子と比べるのではなく、その子の中でどう変わったかを見るようにしており、その子の努力した所や伸びた所をしっかりと捉えられるよう留意しています。先生が期待すると、密かな無意識の合図を送っている可能性により、成果を上げやすくなるピグマリオン効果があります。「このようになってほしい」と期待していることを具体的に伝え、子ども達の意欲向上につなげるとともに、期待に沿った行動を引き出しています。また、最近接発達領域(ZPD)の考えに基づいた支援として、私たちと一緒にできたことはその子のできたこととして、難しいことやできないことにも挑戦してもらっています。子ども達は期待されていることを肌で感じ、期待に応えられるよう努力し成果を上げ自信をつけています。子ども達を「これから何でもできるようになる子」と前向きに捉え期待することが、子ども達の力を伸ばす源になると信じ、子ども達の持っている力を最大限伸ばすことができるよう支援しています。

 次に、「友だち」の領域に見られる特徴及び支援方法について述べます。松本・山崎(2007)は、ADHD児は「友だちの数が少なくひとりぼっちであると感じ、友だちを作るのが上手でなく、自分が友だちにとっていい友だちと思えないなどの様子が伺える(松本・山崎,2007)」という特徴から、「友だち」において自己評価が低いと述べています。松本・山崎(2007)は、ADHD児のソーシャルスキル面の問題点について、次のように述べています。

ADHD児は、社会性においてつまずきがみられ、友人を求める気持ちはあっても適切に接する方法が分からないことから結果的に相手にされなくなってしまうようなことも多い。また、相手の身になって考えられないことで、反感を買ったり、トラブルを生じさせたりすることもある。これらの集団場面での不適応や友人関係の不成立は、孤独感、自信喪失、意欲喪失など心理面へのダメージともなる。このような二次的な状態が、さらなる社会的不適応となり悪循環を生むことになる。(p.52)

松本・山崎(2007)は、ソーシャルスキルの未発達から生じる問題点及び二次的な問題点を挙げています。ソーシャルスキルとは、それぞれの状況に応じて適切に対処する力のことで、周囲の人とのやりとり等、様々な経験を通して実践的に学び、対処法を知ることで身に付けることができます。子ども達は友達と一緒に遊んだり、ケンカしたり、仲直りしたりする等、様々な経験を積み重ねる中でソーシャルスキルを身に付けていきます。私たちは実際の場面に即して、仲間入りの方法、トラブルを解決する方法、自分の思いを伝えること、相手に合わせること、ルールや順番を守ること、相手の気持ちを考えること、良くないことをした時は素直に謝ること等を身に付けることができるよう、仲介やアドバイスをし、子ども達のソーシャルスキルを伸ばしています。その際、次のような知識を参考に支援を行っています。パーテンは、遊びを6段階に分類しています。第1段階は何もせずぶらぶらしている、専念しない行動、第2段階は他の子の遊びを見ているだけの傍観者遊び、第3段階は一人遊び、第4段階は他の子のそばで同じような遊びを展開するが互いに関わりがない並行遊び(パラレルプレイ)、第5段階は他の子と玩具をやりとりして遊ぶ連合遊び、第6段階は共通の目標に向けて仲間関係が組織され役割をもって遊ぶ協働遊びです。弊所では、それぞれの子どもがどの遊びの段階にいるかを把握し、次の段階へステップアップできるよう支援しています。また、仲間関係には3つの機能があります。1つ目は情緒的支援です。子どもはある時期から親といるよりも友達といる方が楽しいと感じるようになります。親と仲間が与える情緒的支援は異なっており、仲間を作り関わることが大切です。2つ目は社会的圧力です。友達と一緒にいることは楽しいことだけではありません。時には嫌なことにも遭遇します。しかし、その経験こそが社会的スキルの獲得及び洗練をしていくために必要な環境なのです。自分の好きなように振る舞うのではなく、相手のことを考えたり、自分の役割を果たしたりする等、一緒に遊ぶ仲間の中での自分の立ち位置が分かるようになります。3つ目は他者と自分に関する知識の情報源です。仲間と接する中で自分と他者を比較し、自分についてより深く知ることができます。弊所では、大人との遊びを通して人と関わることの楽しさを感じてもらってから友達との遊びへの橋渡しをしています。こうすることで、友達との遊びを自然に始めるようになり、自分から友達を求めるようになります。また、友達と仲良くするためには自分の好きなように振る舞うのではなく、相手のことを考え自分の気持ちと上手く折り合いをつけることを遊びの中で学んでもらっています。そして、児童期後半には、仲間関係の発達が顕著に見られます。小学校高学年になると、徒党を組んで大人に隠れて悪いことをしたり、注意されることをしたり、秘密基地を作ったりし、同一行動による一体感や仲間による承認、ルール破り、異性排除等の特徴が男子に見られます(発達心理学ではギャングと呼びます)。中学生以降になるとチャムを形成し、仲間内だけで通用する言葉を使用したり、仲間内で秘密を共有したり、同じであることを言葉で確認したり、異質なものを排除したり、個人の尊重よりも集団の維持を優先したりする等の特徴が女子に見られます。高校生以上になるとピアを形成し、異質性を受容したり、互いの価値観の相違を認め合ったり、集団の維持よりも個人の自由を尊重したりする等の特徴が見られます。現代は、子ども達が多忙であったり、3つの間(空間・仲間・時間)がなかったりする等、大人から隠れて遊ぶことができないため、ギャンググループが形成されにくくなっています。児童期後半に見られる特徴的集団である徒党は、仲間同士で強く結びつき、他のグループを排斥する構造を持っています。この徒党の攻撃性は通常外部グループに向けられますが、昨今の子どもは遊びが貧弱化しており集団文化の形成を困難にしています。子どもには攻撃の内発的志向性があるため、攻撃が外部グループに向かわず、攻撃の対象を徒党の集団内に求めるという誤った行動が現れます。これがいじめを生むメカニズムです。そして、ある集団から離脱する者を吸収すべき外部グループが存在しないため、攻撃された者はいつまでもその集団に止まらざるを得ず攻撃を受け続けることがいじめの深刻化に繋がっています。遊びは競うという性格を持っており、その競い合いの根底は攻撃の要素を帯びています。対等性、親和性を伴いながら自律性が高められることが遊びの重要な機能です。遊びの楽しさは、本質的には小さな悪を起源としています。その点を把握せず親和性のみを強調してもいじめの根本的解決には繋がりません。過去、徒党があった時代に仲間とエネルギーを解消していたように、今の子ども達に発散できる環境を提供してあげなければなりません。また、チャムグループの肥大化でアイデンティティが確立されず、ピアまで発達しない場合もあります。ギャングでは一見悪っぽさが目についたり、チャムでは人に合わせてばかりで自己主張しなくなったように見えたりしますが、発達段階で形成される仲間との親密さは不安を受け止める働きがあり、友人関係を発達させることには意味があります。弊所では、日常の様々な場面においてソーシャルスキルトレーニングを実施し、仲間入りや関係維持、トラブル解決、感情処理の支援等、実際の場面やその子の困り感に合わせて様々な支援をしています。友達についての自己評価が向上することは自尊感情を形成する自己認知にも良い影響を及ぼします。そうすると、自分に自信を持つことができるようになり、友達との関わりが増え、友達との関わり方がさらに向上していく好循環が生まれます。ADHD児の自尊感情の低下は、周囲の接し方による部分が大きいので、特徴を把握した上で適切に配慮しながら学習面やソーシャルスキル面を伸ばしていきます。また、子どもの気持ちに共感し再挑戦に向けて背中を押し、できなかったことができるようになる経験を積み重ねてもらい、自尊感情を高めていきます。

引用文献

松本陽子・山崎由可里(2007)「小学生におけるADHD傾向と自尊感情」『和歌山大学教育学部紀要.教育科学』57,43-52

Juri, F.