Q&A 健康・生活

Q. 姿勢が崩れやすいのですが?

A. 姿勢を維持することができるのは、筋紡錘(muscle spindle)が筋肉の長さを一定に保つからです。筋紡錘とは、深部感覚のセンサーのことで、筋肉の位置や伸び具合等の情報を常に脊髄に伝えるはたらきをしています。この筋紡錘の情報を基にして脊髄反射が生じ、引き伸ばされた筋肉が元の長さに戻ろうと収縮し、姿勢を維持することができます。深部感覚は、お相撲等でギュッと力を入れる動き、ジェンガ等で遊ぶ時のそっとした動き、だるまさんが転んだ等で止まったり走ったりする動きを繰り返すことで高められます。支援の方法は、運動エフェクトを通して楽しみながら深部感覚を刺激していきます。また、姿勢が崩れやすいことを自覚してもらい、崩れないよう意識してもらいます。その際、少しずつ意識する時間を伸ばしていき、成功体験を積み重ねられるよう配慮します。


Q. 元気よく過ごしてもらいたいのですが?

A. 元気よく過ごすには、食事、睡眠のほか、運動をして適度に身体を動かすことが必要です。運動には、レク効果とトレーニング効果があります。レク効果は、気分転換、疲労回復、家庭生活への寄与があり、トレーニング効果は体力を向上させることができます。疲れさせることは悪いことではなく、体力を向上させるためには、ここまでの運動量が必要なのだという考え方が必要です。一晩寝たら回復するくらいの運動量を設定し、適度に疲労感を感じることで体力を向上させることができます。一晩寝ても回復しない場合は、オーバートレーニングで活動が強過ぎる、自分の体力と合わない可能性があるため、運動強度を調節する必要があります。体力があると集中力を長く維持できるというエビデンスもあり、適度に身体を動かす運動習慣を持つことには意味があります。


Q. 日常生活動作を獲得するための支援方法は?

A. 日常生活動作は、課題分析した動作を一つ一つ練習して身に付けてもらいます。練習を積み重ねることで、自分でできることが少しずつ増えていきます。練習は、遊びの要素を取り入れ、楽しく取り組めるよう配慮します。また、身に付けた行動は、したりしなかったりではなく、安定してできるようにしていきます。

 課題分析シート

状態欄には下記の該当する数字を書き入れます。
「1」は自分でできる、「2」は声掛けのみでできる、「3」は一部介助、「4」は全介助、また、「-」は機会なし

靴を脱ぐ

手順動作状態
座る
マジックテープをとる
靴のかかとに指を入れる
靴から足を抜く
下駄箱に靴をしまう

トイレに行く

手順動作状態
ドアを開けてトイレに入る
ドアを閉める
トイレのふたを開ける
ズボンとパンツを脱ぐ
便座に座る
用を足す
トイレットペーパーを引っ張り、切る
拭く
立ち上がる
パンツとズボンを上げる
水を流す
手を洗う
ハンカチを取り出す
手をふく
ハンカチをしまう
ドアを開けてトイレから出る
ドアを閉める

手を洗う

手順動作状態
水を出す
少し手を濡らす
石鹸をつける
ゴシゴシして石鹸を泡立てる
水で洗い流す
水を止める
ハンカチを取り出す
手をふく
ハンカチをしまう

おやつの準備

手順動作状態
手を洗う
冷蔵庫から好きな物を1つ取り出す(選ぶ)
お盆にのせる
落とさないように運ぶ
お菓子を1つ取る(選ぶ)
お盆にのせる
落とさないように運ぶ

おやつを食べる(例:ヨーグルト)

手順動作状態
容器をおさえる
ふたの端をつまむ
ふたを開ける
スプーンを持つ
スプーンですくう
口に運んで食べる

おやつを食べる(例:お菓子)

手順動作状態
袋のギザギザの部分を持つ
袋を開ける
中身をお椀に出す
食べる

靴を履く

手順動作状態
下駄箱から自分の靴を取り出す
座る
靴を左右正しく置く
片方の靴を持つ
マジックテープをはがす
靴の口を広げる
足先を靴に入れる
かかとを靴に入れる
マジックテープをつける
Q. 課題分析とは?

A. 課題分析とは、遂行が求められる複雑なスキルを教授できるより小さな単位に分解し、課題を効果的に完了させるために必要な行動順序を確定する手法です。応用行動分析学の課題分析において行動を小さな単位に分解する際には、目に見える単位によって分解します。この課題分析の方法に加えて、その行動要素がどのような知識や技能から成り立っているのかを分析した上で、子どもがその活動や学習課題のどの部分につまずいているのか細部で捉えた実態把握を行うことができれば、複雑に見えるスキルのどの遂行部分につまずきがあるのか、より細かい要素で捉えることができ、その情報を基によりよい支援に結びつけられます(村岡玲子・霜田浩信,2021)。


Q. 応用行動分析の課題分析で日常生活動作の獲得を支援する際の留意点は?

A. 子どもが自分でやってみる機会を確保し、自分でしてみようという気持ちを高めていきます。また、手を添えて一緒に動作を行う等の身体ガイダンスや、声を掛ける言語教示やお手本を示すモデリング等、次の行動の手がかりを示すプロンプトを用いて、自分でやってみることをサポートしていきます。その際、上手くできなくても自分でやろうとしたことを褒めることに配慮します。また、「着替えたら遊ぼうね」等、効果的な声掛けを探し、やる気を引き出していきます。最終的に目標とした日常生活動作が一人でできるようになるよう、その行動の中に含まれる動作を一つ一つスモールステップで習得してもらいます。

Q. 応用行動分析の課題分析を遊びの中にも取り入れる理由とは?

A. 遊びの中に取り入れる利点は、やってみる機会を増やすことができる点です。例えば、お菓子の袋を開ける動作は、おやつの時間の一度しか練習できませんが、紙をちぎる遊びを取り入れることで、袋を開ける動作と似た動作の練習を繰り返しすることができます。他には、ファスナーを開けたり閉めたりすること、袋から物を取り出したりしまったりすること、小さいものをつまむこと、スプーンですくうこと、シールを貼ること等、遊び感覚で日常生活動作の練習をしていきます。


Q. スプーンを使って食べられるようにする支援の方法は?

A. 行動療法による支援を実施します。まず、スプーンを使って食べる動作を課題分析し、既にできていることとできないことを明確にします(Table 1)。状態欄には、1:自分でできる、2:声掛けのみでできる、3:一部介助、4:全介助の何れかを書き入れます。そして、行動連鎖化の逆向連鎖を用いて支援を行い、「食べて」という一般的教示を与えるだけで、スプーンを使って食べるすべての行動を遂行できるようにしていきます。最初は、簡単にすくうことができるものから練習していきます。食材は、ヨーグルト等を用います。ヨーグルトを用いる理由は、やわらかくてとろみがありスプーンにのせやすいからです。また、スプーンを正しく持つことができるよう、持ち方の補助具を使用して練習を行います。

Table 1

手順動作状態
スプーンを手に取る
スプーンを正しい持ち方に持ち替える
スプーンをお椀に入れる
スプーンで食べ物をすくう
スプーンを持ち上げる
スプーンの上にのせたものをこぼさないように口まで運ぶ
スプーンを口に入れる
スプーンを口から出す
スプーンを置く
Q. 行動連鎖化の逆向連鎖とは?

A. 逆向連鎖とは、1つの動作を課題分析し、最後の段階から順に教えていく方法です。逆向連鎖を用いた指導は、最後の段階を自分で取り組んで一連の行動が完了するため、子どもの達成感が大きく、子どもの指導に向いているとされています。

Q. スプーンですくう動作に始まる一連の行動連鎖の教示方法は?

A. まず、プロンプト(行動を促すきっかけとなる刺激)によって、子どもがスプーンの上に食べ物をのせてお椀から持ち上げられるよう補助します。子どもがスプーンにのせたヨーグルトを口まで運んだら、褒めて行動を強化します。スプーンを口から離してお盆に置くことができたら、再び言葉で強化し、できない場合は必要最小限のプロンプトを提供します。スプーンですくう動作に始まる一連の行動連鎖を完了することができるようになったら、スプーンですくう動作に対するプロンプトと強化をフェイディング(徐々にプロンプトを減らす)します。適切に反応できなければ、再度プロンプトを提供し、適切に反応できるようにします。フェイディングを続けながら、子どもがすべての行動を完了できるようになったら、次のステップに移ります。クリアの基準は、5回中5回または10回中9回、プロンプトなしで正しく反応できることとします。

Q. 食べ物をすくう以外の行動の教示方法は?

A. 子どもに空のスプーンを手渡し、「食べて」という一般的教示を与え、スプーンをお椀まで持っていくことを、食べ物をすくう行動と同様の手続きで行います。また、スプーンを正しい持ち方に持ち替える動作、スプーンを手に取る動作も同様の手続きで習得してもらいます。この行動連鎖化の手続きは、手動プロンプトを使って個々のステップを教えますが、身体プロンプトだけでなくモデリングも用いて教えていきます。モデリングとは、モデルとする他者を観察することで行動が身に付くことです。

Q. 食事場面の練習だけではスプーンが上手く使えない場合の支援方法は?

A. スプーンが上手く使えない場合は、スプーンを使うことだけを教えるようにします。手続きの方法は、マス・トライアル(繰り返し試行)を実施します。まず、大きなスプーンで生の米をすくう練習をします。スキルを習得できたら、小さいスプーンに般化させます。また、すくう物の難度を、生の米、おかゆ、ごはんというように徐々に難度を上げていきます。子どもに同じ教示を繰り返し提示し、プロンプトを付加しながら正しい反応を形成します。また、正しい反応はほめて行動を強化し、正しくない反応は強化しないことによって行動を弱める分化強化の手続きを実施します。そして、行動の生起に伴い、プロンプトを徐々にフェイディングし、子どもがプロンプトなしで正しく反応することができるようにしていきます。

Q. スプーンを使って食べられるようにする支援の留意点は?

A. ①注意を逸らす刺激を最小限にし、教示に反応しやすくします(刺激統制法)。②一度に1つのことだけを教えるようにします。また、教示する際の言葉は、子どもが注目し易いよう「食べて」等、単純なものにします。③人によって指導法が異なると子どもが混乱するため、指導法を統一します。④教示を提示する前に本児に強化子を見せて注目をひきます。⑤強化子は好きな食べ物を用いますが、効果の弱まりが見られた場合は、新しい強化子を提供し、トレーニングに飽きないようにします。また、ほめる、頭をなでる、ハイタッチする等の社会的強化子を必ず随伴させます。⑥自己刺激行動に著しい増加が見られたら、注目練習(ウェイク・アップ練習)を10~15秒間実施します。⑦子どもの正反応に対し即時強化を実施します。反応から強化までの時間が長くなるほど強化の有効性は加速度的に減少します。⑧誤った反応を強化する声掛けを控えます。例えば、「おしい」等の励ましの言葉は、ほめ言葉として受け取られる場合があります(Ivar Lovaas,2011)。

Q. 注目練習(ウェイク・アップ練習)とは?

A. 注目練習とは、習得済みの課題や動作模倣課題を素早く提示し、それと同時に現在取り組んでいる課題を提示することです。

Q. 即時提供できない強化子(食べ物等)を用いる時の支援方法は?

A. まず、ほめ言葉を即時に提供し、食物強化子を手に取って子どもに渡すまでの時間の遅れを埋めるようにします。

Q. 正反応が生起しない場合の教示と反応との時間間隔は?

A. 正反応が生起しない場合の教示と反応との時間間隔は3秒以内とし、教示と反応の間隔をできるだけ短くします。そして、すぐに次の試行に取り組み、望ましい反応をプロンプトします。教示と反応との時間間隔を短くする理由は、例えば教示から3秒以内に正反応が生起せず指導者が正しい反応をプロンプトした場合に、教示と反応の結びつきよりも、プロンプトと反応の結びつきの方が強まってしまうからです。


Q. 学校の制服を包む風呂敷を結べるようにする支援方法は?

A. 一重結びができるようになることを目標に、応用行動分析の手法の一つである課題分析を用いて行動形成を行っていきます。具体的には、5つの行動要素に分けて練習を実施していきます。行動要素は以下の通りです(Table 1)。①2本のひもを左右の手で一本ずつ持つ。②左右の手を交差してバツ印を作り、そのまま離す。③左手で交差している部分をつまみ、右手で右側のひもを持つ。④右手のひもを交差している部分の下をくぐらせる。⑤2本のひもを持ち、横方向へ引っ張る。これらの行動要素を身体ガイダンス、モデリング、プロンプトを用いて練習を進めていきます。第一段階は、結び方が分かりやすいよう、形状を維持することができるモール2本を使います。そして、第二段階ではモール1本とひも1本、第三段階ではひも2本、第四段階では風呂敷をそれぞれ使います。このように、徐々に難度を上げながらスモールステップで1つずつ順に練習し、一人でできるようにしていきます。

Table 1

手順動作状態
2本のひもを左右の手で一本ずつ持つ
左右の手を交差してバツ印を作り、そのまま離す
左手で交差している部分をつまみ、右手で右側のひもを持つ
右手のひもを交差している部分の下をくぐらせる
2本のひもを持ち、横方向へ引っ張る

Q. 生活面の自立に向け、できることを少しずつ増やしていく支援方法は?

A. 自分でやってみる機会を提供します。「こうしたらできるんだ」と子どもが具体的なイメージをもつことができるよう、お手本を示したり、アドバイスをしたりし、方法を具体的に分かりやすく伝えます。そして、手助けを徐々に減らしていき、自分でできる部分を少しずつ増やしていきます。その際、がんばったことやできたことをほめ、自分でしようとする気持ちを高めていきます。また、成功体験を積み重ねられるよう配慮し、自分でできたと自信をもってもらい、次のチャレンジへの後押しをしていきます。


Q. シャツをズボンに入れるなど、身だしなみを整えられるようにする支援方法は?

A. 手を取って一緒に行う身体ガイダンス、お手本を見て真似るモデリング、声掛けにより方法を伝える言語教示を用いて、方法を分かりやすく伝えながら段階的に練習を進めていきます。また、自分の服装が整っているか気に掛けるタイミングを伝え、自分で整え直すことができるようにしていきます。例えば「運動の後にチェックしましょう」「トイレの後にチェックしましょう」等、服装が整っているか気に掛けるタイミングを予め伝え、自分から整え直すことができるようにしていきます。留意点としては、スモールステップで課題を設定することで成功体験を積み重ねられるようにし「自分にもできそうだ」「自分でやってみよう」という気持ちを引き出すようにします。


Q. 荷物の整理整頓が苦手な子への支援方法は?

A. 整理整頓が苦手なことにより、ランドセルにプリントが乱雑に入っていたり、必要な物が見つけられなかったり、宿題を忘れてきたり等、学習面に支障が出てくるため改善が必要です。まずは、プリントはファイルにしまう、教科書を揃えてからランドセルに入れる、探し物をする時は一旦すべて出す等、一緒に整理したり探したりする経験を通して、どのようにすればよいか覚えてもらいます。その際、「整理しておくと、気持ちがよい」「整理しておくと、すぐに見つけられる」等、整理することの利点が感じられるようにし、整理整頓への意欲を引き出していきます。また、整理整頓を継続できているかチェックを行い、「後でやらないといけないのなら、初めからやっておこう」と思ってもらえるよう、整理整頓を習慣化し、自分でできるようにしていきます。

引用文献

イヴァ・ロヴァス(Ivar Lovaas)(2011)「自閉症児の教育マニュアル―・ロヴァス法による行動分析治療」(中野良顕訳)ダイヤモンド社

村岡玲子・霜田浩信(2021)「発達障がい児における課題分析に基づく実態把握と支援の検討」『群馬大学共同教育学部紀要』70,145-163

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