楽しい環境で話したい気持ちを引き出し、音声模倣トレーニングで発話能力を向上させる

 明るく穏やかな性格で、友達と仲良く過ごすことができています。最近はマグネットブロックで遊ぶことを気に入っていて、魚やダイヤモンド等、四角形と三角形を組み合わせて立体的な形を作ることができます。また、友達のしていることに興味があり、同じ遊びを始めることが多く、楽しそうに過ごしています。運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組んでくれています。ジグザグランでは、以前は通る道が分からず好きなように走っていましたが、次に通るカップの色を伝えるとジグザグに進むことができるようになりました。集団遊びでは、繰り返し行っている高鬼のルールが分かるようになりました。鬼ごっこでは、長く走り続けられるようになり、より楽しめるようになりました。コミュニケーションの面では、Show & Tellに積極的に取り組んでくれています。持ってきた物について2~3個の単語を言うことができます。言葉が上手く伝わらなかった場合にはジェスチャーをしながら一生懸命伝えようとしてくれます。発表後の友達からの質問に対しては、指導員からアドバイスをもらいながら答えることができています。また、友達が発表した後の質問の時間には、ほぼ毎回手を挙げてくれます。質問ではありませんが、スポーツカーの発表をした子に対して「速い」と言ったり、キラキラしている入れ物の発表をした子に対して「かわいい」と言ったりする等、物の名前以外の言葉が出てくることが増えたことに成長を感じています。これは、物と名前に対し、相互的内容及び複合的相互的内包を言葉にしていた本児童が、比較課題の訓練を実施したことにより、刺激機能の変換が生じたことを表しています。今後さらなる支援を継続し、物事をさまざまな種類の関係の中に位置づけ表現できるようにしていきます。

 気になる点は、興奮すると大声を出してしまう点、言葉の模倣が難しい点です。大声を出してしまう点については、声掛けを継続するとともに、友達にも協力してもらい落ち着いて過ごすことができる環境を整えていきます。言葉の模倣については、以下に詳しく述べていきます。

 保育園や小学生の頃は大目に見てもらえたことも、中学生、高校生、大人と成長するにつれて大目に見てもらえなくなる等、求められるソーシャルスキルは年齢や所属するコミュニティによって変化するものです。本児童に対しては数年後の就職に向けて、ふざけない、大声を出さない、人に触らない等の基本的なことを身に付けられるよう支援していきます。ソーシャルスキルは言語行動との関連が指摘されており、言語行動の向上がソーシャルスキルの向上につながります。また、言語行動の指導は、言葉自体や言葉の意味を教えることではなく、言葉の機能を教えることとされています。例えば、赤ちゃんは言葉を話せませんが、泣くことによりお母さんに要求を伝えます。泣き声を聞いたお母さんは抱いてあやしたり、ミルクをあげたり、オムツを交換したりします。このように、言葉を話せない赤ちゃんにとって、泣くことは自分の様々な意思を伝える機能をもっています。成長するにつれて、泣き声にたくさんの機能をもたせ、伝えたいことを相手に考えさせるのではなく、誰からも理解してもらえる言葉を話すようになります。このように言葉は相手に自分の意思を伝える機能であることからも、私たちは本児童に対し楽しい環境を提供し、もっと何かを伝えたいという気持ちを引き出していきます。この取り組みは既に自由時間で開始しており、以前に比べ自分から話しかけてくれることが増えています。まだ発音が不明瞭で上手く聞き取ることができないこともありますが、本児童の発した言葉に対し、想像力を働かせて聞き取り、伝わったという嬉しさを味わってもらえるようにしています。また、本児童が好きなShow & Tellの活動を通して、本児童の積極性を認め、伝えたいという気持ちを引き出していきます。何かを伝えたい気持ちを引き出すには強化子が必要です。本児童は友達や指導員と関わることが大好きなことから、人との関わりが強化子となります。先の自由時間と同様、本児童の発した言葉に対し、注目すること、理解しようとする姿勢、話を完結させることを大切にし、もっと伝えたいという気持ちを強化していきます。帰りの会の目標発表やShow & Tellをすることは本児童にとって少し難しいことですが、本児童に合わせた特別な活動ではなく、敢えて皆と同じ活動に取り組んでもらうことで友達との相互関係が促進され、本児童にとって学びが多くなりできることが増えていきます。今後も皆と同じように挑戦してもらい、時間をかけて少しずつ力を伸ばしていきます。

 発達障がい児の言葉の獲得において、動作模倣はできても音声模倣ができないことが報告されています。本児童も動作の模倣は得意ですが、言葉の模倣は苦手なようです。例えば、自由遊び中に友達の動作を真似したり、友だちの投げ方を真似したりすることはとても上手です。しかし、活動の始まりや終わりのあいさつを依頼した際、「後に続いて言ってください。これから/○○を/始めます/お願いします」と区切りながら言っても模倣することができません。言葉の模倣については、あいさつの機会を多く提供し、構音器官の運動の練習を積み重ねていきます。また、伝言ゲーム、お買い物ごっこ等、言葉を模倣する遊びやクイズで楽しく遊びながら言葉の模倣の練習をしていきます。また、石塚祐香・山本淳一(2016)は、音声言語発達を向上させるための逆模倣について以下のように述べています。

子供の音声言語発達を向上させるために、一般的な訓練方法として、模唱(模倣)が用いられてきた(加藤他, 2012)。(中略)近年では、模倣に加えて、大人が子どもの音と同じ音を出す、逆模倣という技法を用いることで、子どもと大人の音の行動連鎖を作ることが可能となることが示された(石塚・山本, 2014: Ishizuka & Yamamoto, in press)。逆模倣とは、大人が子供の音声反応を含むすべての行動を模倣することである(Dawson & Adams, 1984;佐久間, 2013)。音声反応に関しては、子供の声の大きさ、抑揚、リズム、プロソディーも同じように模倣する(Pelaez, Ortega, & Gewirtz, 2011)。逆模倣が子供の反応と全く同じように応答することに対して、拡張逆模倣とは、行動連鎖の中で参加児の反応を少し拡張して模倣をすることである。(p.21)

石塚・山本(2016)は、音声模倣には模倣・逆模倣・拡張逆模倣の3種類があり、逆模倣は大人が子どもの発した言葉を模倣することで、まだ音声模倣ができない子に模倣することを教えることができ、拡張逆模倣は新たな音を拡張したり声の大きさや長さ等を変化させたりし、新しい言葉を引き出したり反応を強化したりすることができると述べています。また、逆模倣を用いたトレーニングは、「自発的な行動や社会的な行動を促進させることが明らかとなっている(石塚・山本,2016)」、更に「接触や、くすぐりなど社会的な強化子とプロンプトを用いた音声模倣訓練を行うことで、様々な発声を模倣することができ、明瞭度も向上した(石塚・山本,2016)」と述べています。遊びの中で自分の言葉を真似してもらうことが楽しいと思うと、更に真似してもらおうと自発的な言葉が増えます。音声模倣が難しい本児童に対し、私たちが逆模倣することで音声模倣することを覚えてもらいます。

 本児童の言語発達の支援をする際に留意することは以下の4点です。1点目は、弁別刺激の使い過ぎに注意します。弁別刺激を使い過ぎると、その刺激がないとその行動が起こらなくなるからです。初めのうちは強化子を与えて目標行動を増やしますが、ある程度その行動が増えたらフェイディングを実行し、ご褒美等がなくても行動が継続するようにします。2点目は、自発的な行動を促すため、遅延プロンプトを用います。プロンプト(行動を促すきっかけとなる刺激)に頼ってしまうと自発的な行動が抑えられてしまうので、プロンプトの提示を遅らせることで自発的な反応を引き出していきます。例えば、昼食の片付けでゴミの分別が分からず困っている際、敢えてこちらから声を掛けず、本児童から「○○先生」と呼んだり「手伝ってください」と頼んだりする等の自発的な発話を引き出していきます。3点目は、質問の弁別が難しかったり返答に困ったりしている場合は、言語的ヒントを提供します。例えば、黄色のボールの絵を見せて「何色?」と尋ねているのに「ボール」と答えてしまう等、質問の弁別が難しい場合に、「赤?白?黄色?」と言語的ヒントを提示することで、そのヒントを手掛かりに適切に答えることができるようにしていきます。また、「○○はどうだった?」と尋ねられ返答に困っている場合に、より具体的な言葉を複数提示し、選択で答えられるようにしていきます。4点目は、課題分析をする際に、課題を達成するために備えておかなければならない行動を考慮します。本児童が発する言葉を増やし、話すことができるよう、音声模倣をするスキル、自発的に行動するスキル、質問を理解するスキル等、一つ一つのスキルを身に付けられるように支援していきます。

 以上、言葉の模倣を支援する方法及び留意点について述べました。今後も楽しい環境を提供し話したい気持ちを引き出すとともに、逆模倣や拡張逆模倣を用いた音声模倣トレーニングで発話能力を向上させていきます。

引用文献

石原祐香・山本淳一(2016)「自閉症児に対する逆模倣・拡張逆模倣を用いた発話器官の運動トレーニングの効果に関する検討:事例研究」『慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要』81、19-29

Juri F.