物事の見方の違いから生じる不適応行動を改善する

 明るく穏やかな性格で、落ち着いて過ごすことができています。自由遊びの時間は、ブロックで遊んでいることがよくあります。多段式ロケットを作った時には、「第一段階分離」「第二段階分離」と言いながら少しずつ切り離していく所を見せてくれました。また、焼肉屋さんのロボットを作った時には、1体のロボットが体を分解して鍋やコンロ、お皿に変身し、焼肉(ブロック)を恐竜の人形に振る舞ってくれました。本児の作品は、面白い発想のものが多くあり、いつも感心しています。また、頭に思い描いたものをサッと形にできるところに本児の賢さを感じます。

 コミュニケーションの面では、トムとジェリーのパロディを考え、「トマトとゼリー」という題名で友達とよく話しています。友達の考えたストーリーにつっこみを入れたり、自分でオチを考えて話したりしてお互いに笑い合い、とても楽しそうに話しています。また、話す量と聞く量の配分が上手で、仲良く会話を続けることができています。他には、好きなゲームについて、ストーリー設定やキャラクターについて詳しく話してくれることが多く、お話することが上手です。

 運動の面では、どの種目にも一生懸命取り組み、がんばっています。記録会では、歩きながら行う2個同時ドリブル100回を合格することができました。また、開いて閉じてや長縄しりとりのような、2つの課題を同時に行う二重課題が得意です。マットでは、開脚前転、開脚後転でスムーズに起き上がることができるようになりました。ラダートレーニングでは、軽快にすばやく進むことができ、とても上手です。短縄では、繰り返し練習し、後ろ跳びが上手にできるようになりました。また、後ろ交差跳びも手をクロスさせるタイミングが合うようになったこと、クロスした後の縄の回し方が上手になったことにより、連続で跳べるようになりました。集団遊びでは、しっかりとルールを守り、楽しく取り組むことができています。鳥かごでは、相手の名前を呼びながらすばやくパスを回すことができ、判断力や集中力があります。ドッジボールでは、ボールを投げることに積極的に取り組み、より楽しめるようになりました。また。ボールをキャッチできることも増え、がんばっています。

 学習の面では、感情を高ぶらせることなく、落ち着いて取り組むことができています。また、学習への切り替えが早く、集中して取り組むこともできています。公文では、復習を交えながら順調に進め、がんばっています。英語では、毎回決まった分量にコツコツと取り組み、元気よく発音することができています。また、読みやすい整った字を書くことができ、がんばっています。

 本児は全体的に落ち着き、思い通りにならなかった時や学習中に感情を高ぶらせることがほぼなくなりました。また、注意を素直に受け入れ、同じ注意を受けないように気を付けられるので、注意を受けることもほとんどなくなっています。しかし、本児に悪気があるわけではありませんが、空気を読めない発言や、相手を気遣わない態度をとってしまうことがあります。例えば、「○○ではなく□□です」等、話し相手の言葉の違いを細かく指摘することがあります。また、学校で出迎えた際、指導員や友達を待たせても気にせずマイペースに準備をし、一人だけ出遅れる等、普通は状況に合わせて急ぐような場面でも落ち着き払っていることがあります。これらの特性は、その観点への気付きがないことが原因で、悪気がある訳ではありません。これは特性の一つと理解しておくことにより、本児を正しく見つめることができます。一方、「普通は○○なのに」ということだけに目を向けていると、自尊心の低下を招き、二次障がいにつながる可能性があるため注意が必要です。同じ行動でも見つめ方を変えることで、その子の強みとして捉えることができます。例えば、先にお伝えした気になる点は、「言葉を厳密に使おうとする」「自分のペースを貫く」「いつも堂々としていられる」等、本児の良い面と捉えることもできます。

 自閉症児の支援に当たっては、まず、一般的とは異なる感じ方は間違いではない、異文化コミュニケーションである、違いを強みとして生かす視点をもつことが必要です。なぜそのような視点が必要かというと、理解の仕方によって問題は変わり、自閉性の重さよりも理解のずれの方が大きな問題となるからです。その上で、一般的とは異なる感じ方に気付いていった方が将来的な困り感を軽減できる、より自己実現できる可能性を高めることができるという観点において行動の変容を促していくことが必要です。

 本児の支援に当たっては、気になる行動が落ち着いた現時点からは、将来の困り感を減らし、より生きやすくするために、獲得していった方がよい感覚を少しずつ学び始めることが求められます。支援方法としては、ナラティブ・アプローチを用います。具体的には、対話を通して物事の捉え方を自然に変えていくことができるようにします。単に「○○にしたほうが良い」と教えるのではなく、本児の考えを傾聴した上で質問をして語りを振り返ってもらうとともに、本児の主観的世界に意味づけを行い、本児が納得して受容できるもう一つの語りを提供します。私たちは、空が青いと言い、実際に空が青いと思っています。しかし、実際の空は青色というより水色に近い色をしています。この例のように、社会の様々な事象は人々の頭の中で作り上げられたものであり、異なる文化の下では、言葉の意味する内容や感情、反応すべてが異なります。様々な経験を積み重ねていく中で、「こんなふうにした方がいいんだ」と一般的な感覚を知り、より適応的な行動ができるよう支援していきます。その際、本児自身が自分の感覚を否定してしまうことがないよう、良い面も他の人と少し違った面もひっくるめて、自らの個性に誇りをもつことができるように接していくことに配慮します。

 本児は、様々な活動に積極的に取り組み、運動面・コミュニケーション面・情緒面・学習面において大きく成長しました。今後も本児の良い面をさらに伸ばすとともに、自らの個性に誇りをもち生き生きと過ごすことができるよう支援していきます。

Juri F.