様々な活動を通して、楽しみながら読解力につながる力を伸ばす-メタ認知や心の理論の発達を促し包括的読解力の向上を図る-

 明るく素直な性格で、運動・学習どちらも一生懸命取り組んでいます。運動の面では、パラレルアクションやNバック課題等、頭を使う種目が得意です。記録会では、V字ドリブル100回を合格したり、幅跳びで133cm跳べるようになったりし、記録が大きく伸びました。また、上手くいかないことがあっても前向きに練習を続けられるようになり、心の成長が感じられます。学習の面では、公文・レプトンをがんばっています。公文では、分数の加減乗除すべての計算の仕方を覚え、一人で解くことができるようになりました。レプトンでは、基本的なあいさつの練習をがんばっています。書く量が多めですが、いつも丁寧な字で書いています。記憶力が良く、ローマ字練習では「あ」から「ん」まで覚えることができました。公文・レプトンどちらも学習内容の理解が早く、新しいことをどんどん吸収することができています。コミュニケーションの面では、友達と一緒に遊ぶことが大好きで、自分から「入れて」と声を掛け、仲良く過ごしています。友達と遊びの世界観を共有し、思い浮かんだ場面展開を提案しながら楽しそうに遊んでいます。また、Show & Tellでは、自分で描いた絵やお気に入りの物等を持ってきて、皆の前で堂々と発表することができます。良さを伝えたいという気持ちが強く、がんばった所や好きな所等を上手に説明することができます。

 本児童は素直にアドバイスを受け止め、自分の行動を変えることができるので、これまでに様々な点が改善され落ち着いて過ごすことができています。先日、帰りの会の自分の小さな目標の発表で、「国語が苦手だから国語をがんばりたい」と話していたので、本支援計画では読解力についてお伝えします。

 近年、経済協力開発機構(OECD)が実施する国際学習到達度調査(PISA)において、日本の順位は2012年4位、2015年8位、2018年15位と読解力の低下が指摘されています。「国語力(読解力・記述力)低下の要因として、社会全体の活字離れにより、子どもたちが活字に触れる機会が少なくなっている(澤口真理・瀬戸美奈子,2015)」ことが挙げられています。語彙力の向上は読解力を向上させると言われていることからも、読書習慣をつけ多くの本を読むこと、興味の幅を広げ様々な分野の本を読むことが大切です。西垣順子(2000)は、「Oakhill(1994)は児童期における読解力の個人差を決定する要因の一つとして、メタ認知をあげている。メタ認知は特に、文字を読むことに習熟する時期以降の読解力に影響を持つ(西垣,2000)」と述べています。メタ認知とは、「自分自身の認知過程に対する認知のことであり、自分自身の心(mind)の動きを上位からモニタリングする機能(西垣,2000)」のことです。メタ認知ができるようになると、自分の状況を客観的に捉えられるようになり、経験したことのない問題に対しても適切な解決方法を模索することができるようになります。読解は「読んだ内容を理解・分析し、頭の中でイメージを膨らませ、自分で仮説を立てながら読み進めていくことが必要で、メタ認知能力も相当に必要とする(澤口・瀬戸,2015)」と言われています。このように、メタ認知能力と読解力は関連があることから、読解力を向上させるには、メタ認知能力を高めることが必要です。そして西垣(2000)は、読解のしやすさと既有知識との関係について「既有知識の豊富な分野についての文章、定番の小説や物語のように読みなれた形式を備えた文章の場合には、確かに読解は容易に成功する。一方で、既有知識のない分野についての文章を精読する場合には、読解が上手くいかないこともしばしばありうる(西垣,2000)」と述べています。例えば、興味のある分野や得意な分野、別の教科等で学習したことのある分野の話であれば、そうでない場合に比べ断然読みやすくなります。したがって、既有知識の量は読解力と関係しているという認識をもち、低年齢のうちから様々なことに興味をもって本を読んだり話を聞いたりする等、できる限り既有知識を増やしておくことが重要です。弊所では、大人も身近な遊び相手であり、自分自身の心(mind)の動きを上位からモニタリングする機能、つまり本人が思考から物事を見るのではなく自身の思考を見るメタ認知への気付きを促す環境や、本人の何気ない疑問に答えたり、分からないことを調べたりして、様々な情報を吸収してもらいながら既有知識を増やすことができる環境があります。また、同年齢だけでなく、年上の友達とも関わりを多くもつことができます。友達との会話や遊びを通して、自分とは異なる視点等、異年齢集団ならではの様々な刺激を得ることもできます。また、西垣(2000)は、既有知識が無い場合に用いる読解方略について、次のように述べています。

既有知識の少ない領域についての文章から新しく知識や情報を獲得する場合には、既有のスキーマに頼った読解を行うことができない。そのため、新しく情報が作動記憶に入力されたときに関連する先行情報を検索するための文脈を、読者は自覚的に作り出さなくてはならない。そのためには、文章読解についてのメタ認知的知識を利用しながら読解方略を実行する必要がある。例えば説明的文章を読む場合、説明文の構造についての知識(序論・本論・結論といった文章の展開、段落の始めと終わりにキーセンテンスがくること、など)や要点となる情報の示しかたについての知識(箇条書き、見出しなど)を利用すれば、どの情報が要点であるかを同定することができる。このように要点情報と非要点情報を区別して、要点情報を重点的に符号化することで、要点情報を中心に組織された文章表象が生成でき、文章情報を処理する際には、要点情報との関連で個々の情報の解釈を行うことができる。このように読解方略についての知識を持ちそれを実行することによって、既有スキーマのない領域についての文章からも、一貫した表象を作りだし、読解に成功することができるのである。(p.133)

西垣(2000)は、既有知識が無い場合には要点情報等を使った読解方略の知識を活用して読解を行うと述べています。また、「方略的な読みが行えるようになるには、子ども自身の認知発達の他に、動機、教授、社会的な支援など多くの要因が関与する(西垣,2000)」とも述べています。弊所では、「項目特定処理」の活動をしています(島田,2008)。項目特定処理では、新聞記事を用いてクイズをするだけでなく、全体の文脈や問題・背景・原因・例等といった文章の構成についても説明しています。繰り返し取り組むことによって、様々な話題に触れるだけでなく、読解方略についての知識も得ることができます。また、この活動で得た知識は、学校で難しい文章が出てきた際にも読解の手がかりとして活用することができるようになります。さらに、西垣(2000)は、年齢による読解の質の違いについて「2年生では、方略を使用しながら読む必要のある文章を読む機会がほとんどなく、(中略)日常の読解も、文字や単語の読みに重点が置かれる(西垣,2000)」と述べています。このことから、2年生では読解の差はほとんど生まれません。そして西垣(2000)は、「読解についてのメタ認知的知識の発達を検討するためには、通常の読解作業が文字の解読中心から意味を引き出すことへと重点を移す小学校中学年くらいの時期(西垣,2000)」以降が大切だと述べています。今後も日常の会話や項目特定処理等、様々な活動の中でメタ認知の発達を促したり、既有知識を増やしたり、読解方略を学んでもらったりする等、読解力の向上につながる力を育んでいきます。

 一方、「物語文の読解においては登場人物の心を理解することが重要であり、特に包括的読解は、登場人物の二次的信念の理解を伴うことが多い。そのため、高次の『心の理論』の発達が物語文の包括的読解力の発達に影響する (子安増生・西垣順子,2006)」とあります。「二次的信念とは、『Aさんは物Xが場所Yにあると思っている、とBさんは信じている』などのように信念の中に信念が埋め込まれている状態(子安・西垣,2006)」を指します。二次的信念の理解ができるようになると、物語を読んだ際、登場人物の気持ちや行動に込められた意味、登場人物同士の関係等が分かるようになります。また、「二次以上の高次の信念を理解できることが、さまざまな社会的概念の理解を深めることにつながる(子安・西垣,2006)」と指摘されており、子どもらしい自己中心的で短絡的な考え方ではなく、社会で通用する考え方を手に入れることができます。本児童の心の理論については、1年生の頃「サリー・アン課題」等の心の理論の課題を正答することはできませんでしたが、現在は正答しています。「二次的信念の理解が可能になるのは9、10歳頃である(子安・西垣,2006)」とあり、本人の心の理論が順調に発達していると考えられます。また、相手の立場に立って考えたり、人の気持ちを想像したりする力、話を聞きながら内容を整理する力も伸びています。先の包括的読解(global reading comprehension)とは、「新情報が読解過程の前のほうで処理された情報とも結合するような読解(子安・西垣,2006)」を指します。それに対し、「新情報が直前に処理された情報のみと結合するような読解を局所的読解(local reading comprehension)(子安・西垣,2006)」といいます。そして、文章全体を理解する包括的読解ができるようになるためには、一文一文をしっかりと理解する局所的読解の発達が必要とされています。さらに、子安・西垣(2006)の研究では、「児童期の心の発達の指標として『責任性の理解』(子安・西垣,2006)」を取り上げています。具体的には、「同意条件と非同意条件の2つの物語を同時に呈示された後、どちらの物語の人物のほうがよくない事をしたか、または同じくらい良くないことをしたかを質問(子安・西垣,2006)」し、「責任性の理解」の確認をしています。「この課題に対して正しく答えられる子どもが多かったのは、9~10歳(子安・西垣,2006)」になってからでした。この年齢は二次的信念課題ができるようになるのと同じ年齢で、この時期に心の発達が促され、包括的読解力も伸びると考えられます。そして、子安・西垣(2006)は、二次的信念課題と責任性理解課題の関係について、次のように述べています。

二次的信念課題に正答できる被験児は、正答できない被験児よりも責任性理解課題に正答できる割合が有意に高かった。責任性理解課題では、(中略)最初の場面の設定に即して、最後の場面の状況を判断しなくてはならない。これは包括的読解力において、物語文章の前のほうに書かれてあるエピソードを考慮しなくてはならないことと共通する。そのため責任性理解課題の成績と物語登場人物の心について包括的に読解することの間には、関連がみられると推測できる。(p.49)

子安・西垣(2006)は、二次的信念課題ができると責任性理解課題もできると述べています。また、責任性理解課題で正答する力と包括的読解力に関連があると述べています。弊所では、この責任性理解課題に相当する場面が多く生じています。友達同士の関わりの中で、いざこざが起きた際、子ども達は「〇〇君が~してきたから」と、直前の出来事を言い分として挙げますが、直前の状況ではなく教室のルールに即して善悪を判断することをその都度伝えています。また、その際の友だちの心の状態を言葉で表し、他人の心の状態を推測したり理解したりする認知的枠組みを育んでいます。10人程度の友だちと様々な経験を積み重ねながら社会性を身につけていく弊所の環境は、活動全体が二次的信念課題及び責任性理解課題のトレーニングをしていることと同義であり、弊所で過ごすことは包括的読解力の向上に有効であると考えています。

 以上、日常場面の対話から「メタ認知」「心の理論」「責任性理解」の発達を促したり、項目特定処理を通して読解方略を学んでもらったり、既有知識を増やしてもらったりする等、文章を読む以外の活動からも包括的読解力を伸ばしていきます。

引用文献

子安増生・西垣順子(2006)「小学生における物語文の読解パターンと『心の理論』の関連性」『京都大学大学院教育学研究科紀要』52、47-64

澤口真理・瀬戸美奈子(2015)「高校生の文章読解における課題について―日本語能力の観点から―」『三重大学教育学部研究紀要』66、165-170

西垣順子(2000)「児童期における読解に関するメタ認知的知識の発達」『京都大学大学院教育学研究科紀要』46、131-143

Juri, F.