認知行動療法により認知の変容を促し、適応的な行動を増やす

 明るく活発な性格で、友達と積極的に関わり、仲良く過ごすことができています。自由遊びの時間は、キャッチボールや挟みドッジボールをすることが好きです。ボールを投げたりキャッチしたりすることが得意で、自信をもっています。また、年下の子と一緒に行う場合は、ボールを投げる時に力加減を考えてくれたり、その子のボールが届く距離まで近づいてくれたりし、優しく接することができます。今後も友達と仲良く過ごすことができるよう支援していきます。

 運動エフェクトでは、身体を動かすことが大好きで、どの種目にも積極的に取り組み、楽しんでいます。記録会では、いつも記録更新を目指し、がんばっています。反復横跳びの記録会では、友達より多くできるようになりたいとがんばり、40回以上の記録を安定して出すことができるようになりました。最高記録は47回で、正確さとすばやさが向上しました。短縄では、二重跳びが連続でできるようになり、とても喜んでいました。最高記録は33回で、縄を速く回すことやジャンプのタイミングを合わせることが上手になりました。また、跳び箱の着地の姿勢まで意識して取り組むことができています。集団遊びでは、ルールをしっかりと守り、楽しく活動することができています。また、勝ちたい気持ちが強く、人一倍がんばっています。ドッジボールでは、チームの中心メンバーとして活躍し、がんばっています。今後も様々な運動を楽しんでもらうとともに、情緒面のコントロール力を伸ばしていきます。

 学習の面では、切り替えが早く、自分から取り組むことができています。以前は早く遊びたいという気持ちから、宿題を忘れてきたり、公文や英語に取り組む量を減らすよう交渉したりすることもありましたが、最近は決められた分量に取り組むことができるようになり、改善しました。また、学習内容の理解力があり、少しサポートすることで新しい内容もすぐに一人で解けるようになります。今後も丁寧に学習支援を実施し、できることを増やしていきます。

 気になる点は、自分勝手な発言や要求が多く、思い通りにならないとイライラし、行動に現れてしまう点です。具体的には、早くボール遊びをしたいという理由で友達におやつを早く食べるように急かしたり、宿題や公文の直しがあると体を揺すってイライラを表したり、運動中に友達の失敗を責めたり、ドッジボールで負けると床に寝転がって泣いたりします。また、運動エフェクトで思い通りにならないことがあった日は、その後の学習の時間にもイライラする気持ちを引きずっており、なかなか切り替えることができません。そこで、認知行動療法を実施し、適切な対処行動の方法を学習してもらい、適応的に行動することができるようにしていきます。認知行動療法には、以下の5つの基本的仮説があります。1つ目の仮説は、自分の周りで生じていることや自分の置かれている状況と、それをどのように解釈するかという認知によって、情動や行動が決定されるというものです。例えば、宿題をやらないといけないという同じ状況でも、「自分のためになる」「早めに済ませた方が後で楽になる」と考える子は自ら宿題に取り組みますが、「どうしてやらないといけないんだ」「面倒だ」と考える子は、何度宿題をするように言われてもなかなか始められないように、宿題をどう捉えているかによってその後の行動も変わります。2つ目の仮説は、他からの働きかけや自分の置かれた状況の評価と今後の予測といった認知を変えることで、自分の情動や行動をコントロールできるというものです。例えば、ドッジボールができない時に、「ドッジボールができないからつまらない」ではなく、「ドッジボールができないなら、別の遊びをすればよい」と認知を変えることによって、イライラすることを防ぎ、情動をコントロールすることができます。3つ目の仮説は、周りの状況をどのように捉え、今後を予測するかという認知は、変容可能であるというものです。例えば、ドッジボールで負けてしまった際に「○○君のせいで負けた、もうこのチームでやりたくない」という考え方は、「負けたけどドッジボールを楽しむことができた」と柔軟な考え方に変えていくこともできます。4つ目の仮説は、ネガティブな自動思考が原因となって問題行動が生じるというもので、5つ目の仮説は、ネガティブな自動思考を変えることにより問題行動は軽減するというものです。例えば「負けるなら、ドッジボールをやる意味はない」という自動思考が原因となって、ミスをした友達を責めたり、床に寝転がって泣いたりする等の問題行動が生じますが、「ゲームだから勝つことも負けることもある」と、考え方を変えることにより問題行動を軽減することができます。これらの基本的仮説の考え方をもとに、本児の自動思考を分析し、本児への影響性を考慮しながら対話を通して認知の変容を行っていきます。

 本児のもっている適応的でない認知として考えられるものは、以下の3つが挙げられます。それぞれの項目について、認知のメリット及びデメリットを本児と一緒に挙げた後、合理的な考え方を伝えていきます。1つ目は、「他の人は私の要望を満足させるべきだ」という認知があります。本児の発言は、自分勝手な要求が多く、思い通りにならないことにイライラし、多くの文句を言ってしまいます。この認知のメリットは、自分の要望をしっかりと主張できること、要望を聞いてもらえれば自分の思い通りにできることが挙げられます。デメリットは、わがままだと思われ、人から敬遠されるようになること、要望が満たされなかった時に他の人以上にイライラしてしまうこと、要望をいつも誰かに聞いてもらえないと満足できなくなってしまうこと、要望を通そうとしても上手くいかず、いつも不満になってしまうことが挙げられます。そこで、本児に伝えたい合理的な考え方は、「他の人が要望を満たしてくれたらいいな」と誰かが少しでも要望に応えてくれたらラッキーだという程度の考えにとどめたり、「10個の要望のうち2、3個でも満たされたら幸せだ」と相手への期待を下げたりするという考え方です。2つ目は、「いつも人が私を悩ませる」という認知があります。本児は「(ドッジボールで)○○君がちゃんとやってくれない」「このチームでは絶対に勝てない」と訴えることが多くあります。この認知のメリットは、人のせいにすることで、たとえ負けてもその原因を自分以外に求められるようになり、自分を責めなくて済むことが挙げられます。デメリットは、他人は自分のしたいことを邪魔する人としか見られなくなること、自分で何とかしようという気持ちを持ちづらく、思うようにいかないと感じることが多くなることが挙げられます。そこで、本児に伝えたい合理的な考え方は、「友達がミスをしたではなく、友達が頑張ってくれた」等、友達の良い所を見るようにしたり、「思い通りにならなくて当たり前」と期待値を下げることによって勝敗の結果に極端に反応することなく、ドッジボールをゲームとして楽しめるようにしたりするという考え方です。3つ目は、「ルールに従うと、私の自由は制限される」という認知があります。「おやつを食べている子がいる場合はボールを使ってはいけない」というルールがありますが、「ボールを使わないと遊べない」「(ボールが)おやつを食べている子の方にいかなければいい」と不満を表すことがよくあります。他の子は別の遊びを始めますが、本児は文句を言い続けてしまいます。メリットは、ルールを変えるきっかけになり得ることが挙げられます。デメリットは、協調性がなくなること、自己中心的な人間に映ってしまうことが挙げられます。そこで、本児に伝えたい合理的な考え方は、「周りとの調和を保つことができるように、自己主張と他者主張を適応的に理解する」等、自分のことだけでなく周りとの関係性も重視できるようにするという考え方です。以上、これらの3例のように、本児自身が現在もっている認知のメリット及びデメリットを理解した上で、合理的な考え方を手に入れられるよう支援していきます。その際、本児自身が考え方を変えた方が自分にとって得だと感じられるよう働きかけ、前向きに変容していくことができるようにしていきます。

 本児は、様々な活動に積極的に取り組み、楽しく過ごすことができています。今後も本児の良い面をさらに伸ばすとともに、適応的に振る舞うことができるよう支援していきます。

Juri F.

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