行動連鎖化により、スプーンを使って食べることができるようになる

 穏やかで人懐っこい性格で、人と関わることが好きです。最近は、「あああ」「う~」等、声を出すことを楽しんでいるようなことが増えています。また、抱っこをしてゆっくりと回る遊びをすると、回っている間、口を開けてニコッとしていたり、下ろした後にもう一回というように近づいて腕を広げたりするなどし、この遊びを気に入ってくれています。他には、動くクルマのおもちゃが好きで、「電源を入れてほしい」等「○○してほしい」という要求を動作で伝えてくれます。今後も様々な活動を通して、人と関わる楽しさを感じてもらえるよう支援していきます。

 生活面では、声掛けにより一人でできることが増えています。具体的には、トイレ後の手洗い時に、水を出したり止めたりすることができるようになりました。また、自分でコップを持ってお茶を飲むこと、水筒のコップをクルクル回して元に戻すこともほぼできるようになりました。他には、ヨーグルトの味やお菓子を選ぶ際に「どっちがいい?」と2つを見せると、いらない方を冷蔵庫やカゴの方に押し返すという方法で、自分の食べたい方を選ぶことができるようになりました。今後も自分でやってみる機会を確保したり、スモールステップで練習を積み重ねたりし、できることを少しずつ増やしていきます。

 気になる点は、自分でご飯を食べることが難しい点です。現時点では、スプーンの上に食べ物をのせた状態で準備をすることによって、それを落とさないように口まで運ぶことは自分でできています。しかし、自分でヨーグルトをすくったり、スプーンの上にご飯をのせたりすることは難しく、自分でやってみようとすることもまだありません。そこで、スプーンを使って一人で食べることができるよう、以下の行動療法による支援を実施します。

 まず、スプーンを使って食べる動作を課題分析し、既にできていることとできないことを明確にします。スプーンを使って食べる動作について、本児の現時点の状態をお伝えします(Table 1)。状態欄の数字は、1:自分でできる、2:声掛けのみでできる、3:一部介助、4:全介助を表しています。

Table 1

 動作状態
 ①スプーンを手に取る2
 ②スプーンを正しい持ち方に持ち替える4
 ③スプーンをお椀に入れる3
 ④スプーンで食べ物をすくう3
 ⑤スプーンを持ち上げる1
 ⑥スプーンの上にのせたものをこぼさないように口まで運ぶ1
 ⑦スプーンを口に入れる1
 ⑧スプーンを口から出す1
 ⑨スプーンを置く1

上記の課題分析結果を見て分かるように、ここまでの経験により既に自分でできている部分も多く、学習が成立しています。したがって、適切な支援を継続することにより、現時点ではできていない動作も、この先の学習でできることを増やしていくことができます。そこで、本支援計画書では、行動連鎖化の逆向連鎖を用いて支援を行い、「食べて」という一般的教示を与えるだけで、スプーンを使って食べるすべての行動を遂行できるようにしていきます。逆向連鎖とは、1つの動作を課題分析し、最後の段階から順に教えていく方法です。逆向連鎖を用いた指導は、最後の段階を自分で取り組んで一連の行動が完了するため、子どもの達成感が大きく、子どもの指導に向いているとされています。本児の場合、上記の課題分析の結果から、「スプーンで食べ物をすくう」という段階の支援から始めることになります。この動作をできるようにするため、以下のように段階を踏んで支援を実施します。最初は、簡単にすくうことができるものから練習していきます。具体的には、おやつのヨーグルトを用います。ヨーグルトを用いる理由は、本児が好きな食べ物で強化子として使えるだけでなく、ヨーグルトはやわらかくてとろみがありスプーンにのせやすいからです。また、スプーンを正しく持つことができるよう、持ち方の補助具を使用して練習を行います。

 最初の手続きは、前述の課題分析で明らかになった未学習の食べ物をすくう行動を教示します。まず、プロンプト(行動を促すきっかけとなる刺激)によって、本児がスプーンの上に食べ物をのせてお椀から持ち上げられるよう補助します。本児がスプーンにのせたヨーグルトを口まで運んだら、褒めて行動を強化します。スプーンを口から離してお盆に置くことができたら、再び言葉で強化し、できない場合は必要最小限のプロンプトを提供します。スプーンですくう動作に始まる一連の行動連鎖を完了することができるようになったら、スプーンですくう動作に対するプロンプトと強化をフェイディング(徐々にプロンプトを減らす)します。適切に反応できなければ、再度プロンプトを提供し、適切に反応できるようにします。フェイディングを続けながら、本児がすべての行動を完了できるようになったら、次のステップに移ります。クリアの基準は、5回中5回または10回中9回、プロンプトなしで正しく反応できることとします。

 次のステップでは、本児に空のスプーンを手渡し、「食べて」という一般的教示を与え、スプーンをお椀まで持っていくことを先と同様の手続きで行います。次に、スプーンを正しい持ち方に持ち替える動作、スプーンを手に取る動作も同様の手続きで習得してもらいます。尚、この行動連鎖は、手動プロンプトを使って個々のステップを教えますが、身体プロンプトだけでなくモデリングも用いて教えていきます。モデリングとは、モデルとする他者を観察することで行動が身に付くことです。

 スプーンが上手く使えない場合は、まず、スプーンを使うことだけを教えるようにします。おやつの時間とは別に練習の機会を提供し、スプーンを使う練習をします。手続きの方法は、マス・トライアル(繰り返し試行)を実施します。まず、大きなスプーンで生の米をすくう練習をします。スキルを習得できたら、小さいスプーンに般化させます。また、すくう物の難度を、生の米、おかゆ、ごはんというように徐々に難度を上げていきます。本児に同じ教示を繰り返し提示し、プロンプトを付加しながら正しい反応を形成します。また、正しい反応はほめて行動を強化し、正しくない反応は強化しないことによって行動を弱める分化強化の手続きを実施します。そして、行動の生起に伴い、プロンプトを徐々にフェイディングし、本児がプロンプトなしで正しく反応することができるようにしていきます。

 最後に、指導の際の留意点についてお伝えします。1点目は、注意を逸らしてしまう刺激を最小限にするなど、指導場所の刺激を制御します(刺激統制法)。こうすることによって、学習の妨げになる刺激が少なくなり、教示に反応しやすくなります。2点目は、一度に1つのことだけを教えるようにします。また、教示する際の言葉は、子どもが重要な刺激に注目することができるよう、「食べて」「すくって」等、単純なものにします。3点目は、指導法を統一します。人によって指導が異なってしまうと本児が混乱してしまうため、一貫性のある指導体制を整えます。4点目は、教示を提示する前に本児に強化子を見せて注目をひくようにします。一方、自己刺激行動をしている間は、教示を与えないようにします。5点目は、強化子は好きな食べ物を用いますが、効果の弱まりが見られた場合は、新しい強化子を提供するようにし、トレーニングに飽きてしまわないよう配慮します。また、ほめる、頭をなでる、ハイタッチする等の社会的強化子を必ず随伴させます。6点目は、自己刺激行動に著しい増加が見られたら、注目練習(ウェイク・アップ練習)を10~15秒間実施します。注目練習とは、習得済みの課題や動作模倣課題を素早く提示し、それと同時に現在取り組んでいる課題を提示することです。7点目は、本児の正反応に対し即時強化を実施します。反応から強化までの時間が長くなるほど強化の有効性は加速度的に減少します。即時提供できない強化子(例:食べ物)を用いる時は、まず、ほめ言葉を即時に提供し、食物強化子を手に取って子どもに渡すまでの時間の遅れを埋めるようにします。また、正反応が生起しない場合の教示と反応との時間間隔は3秒以内とし、教示と反応の間隔をできるだけ短くします。そして、すぐに次の試行に取り組み、望ましい反応をプロンプトします。8点目は、誤った反応を強化する可能性のあるような強化子はすべて控えるようにします。例えば、「おしい」「もう一回やってみよう」等の励ましが該当します。これは、励ましの言葉をほめ言葉として受け取られた場合、意図せず誤った行動を強化することになってしまうからです。時に、「違う」等、通常は嫌悪刺激となるものも強化子として働くことがあることに注意します(Ivar Lovaas,2011)。

 本児は、ここまで練習を積み重ねてきたことにより、できることが少しずつ増えています。今後も、スモールステップで日常生活動作の練習を実施し、できることをさらに増やしていきます。

引用書籍

イヴァ・ロヴァス(Ivar Lovaas)(2011)「自閉症児の教育マニュアル―・ロヴァス法による行動分析治療」(中野良顕訳)ダイヤモンド社

Juri F.

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