家庭と連携してトークン・エコノミー法を用いた支援を行い、安定して登校することができる

 明るく活発な性格で、通所し始めた頃から自ら友達の輪に加わり、すぐに馴染むことができました。また、友達に「一緒に遊ぼう」と誘われることが多く、友達から慕われています。自由遊びの時間には、ボール遊び、風船バレー、ごっこ遊び等、様々な遊びを楽しんでいます。友達に優しく、友達のことを気遣えること、友達の意見を柔軟に受け入れられること、適度に自分の意見を伝えられることから、友達とのトラブルはありません。本児自身、友達と遊ぶことが大好きで、友達と積極的に関わり、仲良く過ごすことができています。

 戸外活動では、前半は鬼ごっこ、後半はそれぞれの好きな遊びをしています。前半の鬼ごっこでは、足の速さに自信をもっており、「(足の速い)○○君から逃げきった」、「今日は1回も鬼にならなかった」と嬉しそうに話しています。後半は、サッカーやハンドベース、虫捕り、木の実集め等をして過ごしています。「カエルいたよ」、「バッタ捕まえたよ」等、友達に元気よく呼びかけ、友達と会話を楽しみながら遊んでいます。また、友達が苦戦していたトンボ捕りでは、そっと近づいた後、すばやく網を振って捕まえることができ、友達に驚かれていました。決められた場所で遊ぶ、前に人がいるときはボールを蹴らない等の安全面のルールもしっかりと守りながら生き生きと活動し、友達との交流を楽しんでいます。

 運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組み、がんばっています。短縄跳びでは、二重跳びが1回できるようになり、連続2回の成功に向けて練習をがんばっています。ポートボールでは、パスを出すだけでなくボールを持っていない時の動きも上手で、パスをもらえる位置にさっと移動することができます。友達との連携も上手く、速攻でゴールを決められることがよくあります。鉄棒では、友達がしている所を見て練習し、地球回りができるようになりました。また、逆上がりの練習にも自主的に取り組み、できるようになりました。練習を始めた頃は、マットの後転で勢いをつけられなかったり、跳び箱の台上前転で思い切ってジャンプすることができなかったりする等、少し怖がっていましたが、練習を重ねるうちに慣れ、できるようになりました。特に、台上前転では1段から順に段数を上げていき、今では5段までできるようになりました。

 学習の面では、切り替えが早く、集中して取り組むことができています。宿題、公文の順にスムーズに進め、余裕をもって終えることができています。公文では、1日3枚ずつコツコツと取り組み、がんばっています。計算ミスが少なく、1問1問丁寧に取り組むことができています。また、学校ではまだ習っていない内容に進んでおり、自信をもっています。レプトンでは、繰り返し読む練習をし、2、3文を一人で読むことができます。また、質問に対する正しい答えを選ぶリスニングクイズの正答率が上がってきています。課題が終わると自分から「できました」と報告したり、分からない所を質問したりし、前向きにがんばっています。

 気になる点は、学校を休んでしまうことが増えている点です。文部科学省によると、不登校とは、年度間に連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒のうち、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しない、あるいはしたくてもできない状況にある者と定義されています。「令和2年 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、令和2年度の不登校児童生徒の割合は、小学生1.00%(100人に1人)、中学生4.09%(24人に1人)と示されています。不登校の学年別割合は、小学1年生0.3%、小学2年生0.5%、小学3年生0.8%、小学4年生1.0%、小学5年生1.5%、小学6年生1.8%、中学1年生3.3%、中学2年生4.5%、中学3年生4.5%と示されています。不登校の上位の要因として、小学生は無気力・不安が46.3%、親子の関わり方が14.6%、生活リズムの乱れ・あそび・非行が14.0%、中学生は無気力・不安が47.1%、いじめを除く友人関係をめぐる問題が12.5%、生活リズムの乱れ・あそび・非行が11.0%と示されています(文部科学省,2021)。これらの調査結果から、小学生よりも中学生の方が不登校の割合が高い、学年が上がるにつれて不登校割合が高くなっている、要因は小中学生のどちらも無気力・不安が約半数を占めていることが分かります。昔は不安等の精神的な不登校が多くみられましたが、最近は無気力等怠けの不登校が増えていると言われています。

 一方、学校復帰がゴールとされてきた従来の不登校対応が2016年の教育機会確保法の成立により転換されました。教育機会確保法の基本理念では、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること、教育支援センター(適応指導教室)等、学校以外の場での多様で適切な学習指導が重要であることが示されました。また、不登校児童生徒の無理な通学は状況を悪化させてしまう可能性があるため、休養の必要性を認め、不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われるよう、不登校児童生徒及びその保護者に対する必要な情報の提供、助言その他の支援を提供することが必要であるとしました(文部科学省,2016)。このように、学校復帰を目的とするのではなく、個々の状況に応じて学校以外の場でも必要な支援が受けられるよう不登校対応が転換されました。現時点、本児は不登校になっているわけではありませんが、このままの状況が継続してしまうと、いずれ不登校になってしまう可能性も考えられるため、行動療法を用いて支援を行い、学校に安定して行くことができるようにしていきます。

 発達障がいをもつ児童生徒においては、行動・情緒面、学習面、社会面など幅広く問題がみられます。それらのいずれの側面においても大きな影響を及ぼす問題の一つとして、不登校の問題があげられます(奥田,2005)。友達と上手くコミュニケーションをとることができない、じっとしていられない等、発達障がいの特性により学校環境に適応できず、不登校になってしまうことがあります。一方、民間の療育センターや児童相談所の対応は、「学校に無理に行かせる必要はない」と、登校支援に向けての助言が得られるものではなかったり、「本人が学校に行きたいと思うまで充電させておくこと」、「無理をかけると将来が心配なので十分、甘えさせるように」などと、現状をすべて受容した対応をとるような助言をされたりします(奥田,2005)。しかし、このような対応では根本的な解決に至らず、対応に困っている保護者が多いのが実状です。

 登校支援に有効な方法として、行動療法の一つであるトークン・エコノミー法があります。トークン・エコノミー法の臨床的有効性と利便性は高く、教室での様々な行動や学業成績の改善、聴覚障がい児における視覚的注意の向上、グループホームにおける職員と利用者の相互作用の改善のためのコンサルタントによる介入など、多様な場面に適用され、成果を上げています。不登校への支援においてもトークン・エコノミー法の実施は比較的容易で効果的であると報告されています(奥田,2005)。トークン・エコノミー法は、目標を達成した場合にシール等の報酬をもらい、報酬が一定数たまった時に、お菓子等のより具体的な報酬がもらえるという仕組みです。この方法は弊所でも使用していますが、多くの子がシールをもらえるようがんばっており、効果がみられます。本児もトークンをもらえなくなる基準である3回目の注意を受けないよう行動を変えてくれることがあり、トークンをもらいたいという気持ちをもっています。そこで、この方法を本児の登校支援にも使用し、登校の後押しをしていきます。

 以下に奥田(2005)が行ったトークン・エコノミー法を用いて不登校が改善した事例を紹介します。この事例を参考に、本児にも同様の手続きを家庭と連携して行います。まず、1週間分を1枚として「登校がんばり表」を作成します。表には、日付、目標の数、おたのしみ(バックアップ強化子)、シールの合計数を記入する欄を設けます。実施の手続き及び留意点は、母親から子どもに登校がんばり表を見せながら目標とルールを説明すること、母親が新しい週ごとに今週の目標を伝えて子ども自身に記入させること、おたのしみも自分で書かせること、達成できたところだけシールを貼らせること、最後までいったら自分でシールの総数を数えさせて合計数を書かせること、目標を下回ったときはおたのしみをなしとすること、この取り組みを父親に説明し承諾を得ることです。より効果的なものにするために配慮する点は、自閉症児に対して丸印や星印のようなトークンを用いるより、それぞれの子どもの「こだわり」をトークンに反映することです。トークン・エコノミー法を導入する際の前提条件としては、学校においていじめなどの深刻な問題がないこと、保護者に再登校への強い動機づけがみられること、記録行動が安定していること、生態学的調査に基づいてバックアップ強化刺激を選定すること、不安などの仮説を検証するためのシミュレーション場面でのアセスメントと事前介入などが挙げられます。これらの前提条件が満たされない場合、例えば、対象児童が学校において明確ないじめを受けているなどの問題がある場合は、他の介入が検討されるべきです。

 そして、登校がんばり表を導入した結果、母親から「(子どもが)こんなふうにやって欲しかったんだよと喜んでいる」、「目標を持ったことで驚くほど楽しんで登校できるようになった」、「朝、信じられないくらい従順になった。暴力もなくなった」という報告がありました。また、目標の基準を高くしても目標を下回ることがなく、100%の学校参加率が連続するようになりました。その後、学校参加率が安定し、登校がんばり表を使用しなくなっても登校行動が維持されていることが報告されました。このように、トークン・エコノミー法を用い、学校参加の成功・不成功に焦点を当てて支援した結果、学校への自発的な登校行動が形成されました(奥田,2005)。

 奥田(2005)は、自閉症児の支援として、スケジュールを示すことが大切だとよく言われますが、世の中では通常、先のことが分からないことの方が多いから、すべてスケジュール化することは不自然すぎる、先のことが分からない状態を苦痛でないようにすることも可能であると述べています。一見その子の望むようにした方が良いと思われがちですが、本人にとって嫌なことや苦手なことを避けるのではなく、上述の奥田(2005)のように、不安をワクワクドキドキと言い換えるなど、少しの工夫を加えることで、嫌なことや苦手なことを克服できることもあります。

 また、本児は、家庭において自分で着替えない、癇癪を起こす、暴れる等の不適切行動が見られますが、弊所では一度も見られず、良い子で過ごしています。このことから、登校前に家庭で激しく抵抗していたとしても、おそらく学校の教室に入ってしまえば普通に過ごしていると思われます。登校場面での激しい抵抗は注目の機能がある(奥田,2005)とされており、家庭における本児の行動にも注目の機能があると想定されます。ここでいう注目の機能とは、自分を見てほしいということです。不適切行動をした時には注意し、良い行動をした時には声を掛けないことがよくありがちですが、注目の機能を適切に満たすためには、良い行動をした時に褒めることが大切です。したがって、危険がない限り、不適切行動をしている間は敢えて関わらず、不適切行動を止めた時や適切な行動をした時に褒める等の声掛けをして注目するようにすると、行動の変容をすることができます。

 本児は、元気良く活発に遊び、友達と仲良く過ごすことができています。また、活動に積極的に参加し、運動面・学習面どちらも力を伸ばしています。これからも本児の良い面をさらに伸ばすことができるよう支援していきます。また、家庭と連携してトークン・エコノミー法を用いた支援を行い、安定して登校することができるようにしていきます。

引用文献

奥田健次(2005)「不登校を示した高機能広汎性発達障がい児への登校支援のための行動コンサルテーションの効果―トークン・エコノミー法と強化基準変更法を使った登校支援プログラム―」『行動分析学研究』20,2-12

文部科学省初等中等教育局児童生徒課(2016)「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(平成28年法律第105号)」文部科学省.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1380960.htm,(参照2022-01-18).

文部科学省初等中等教育局児童生徒課(2021)「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」文部科学省.https://www.mext.go.jp/content/20211007-mxt_jidou01-100002753_1.pdf,(参照2022-01-18)

Juri F.