周囲の配慮により興奮することを減らし、落ち着いて過ごすことができる

 素直で穏やかな性格で、様々な活動に参加し楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、パズルやボール遊びをすることが好きです。パズルでは、絵を見ながら同じ色の部分を参考にしてはめていくこともありますが、台紙に描かれている形を見てピッタリあてはまる所を探してはめていくこともあります。似たような柄のピースが多い新幹線のパズルを一人で完成できるようになり、集中力の持続時間が伸びています。完成すると「できました」とにっこりとして報告してくれることもあります。ボール遊びでは、ボールを手でドリブルしたり、友達に誘われてキャッチボールをしたりして遊んでいます。投げ方のお手本を直前に見せると上手に真似し、ボールを遠くまで投げられることもあります。また、遊びを止めたくなった時には、自分から言葉で伝えてくれます。他には、友達に誘われたトランプに参加し、指導員にルールを教えてもらいながら神経衰弱やババ抜きをしています。神経衰弱では「2枚めくってね」「元に戻してね」、ババ抜きでは「○○君から1枚ひいてね」等の声掛けをすると、自分ですることができ、2回目以降は声掛けがなくてもできます。今後も本児の好きなことを通じて人との接点を増やし、楽しく過ごしてもらいます。

 運動エフェクトでは、全種目に参加し、がんばっています。ボールを使った種目が得意で、カラーボールを段ボールに投げ入れたり、ドリブルをしたりすることが上手です。また、平均台でバランスをとりながら歩くことが以前よりも上手にできるようになりました。集団遊びは、友達や指導員にサポートしてもらい、楽しく参加することができています。トナカイのソリ引きでは、ニコニコとしながら皆と一緒に走るようになり、楽しんでいます。鬼ごっこでは、鬼の役割を理解し、友達を追いかけタッチすることができます。チーム対抗戦では、同じチームの子に声を掛けてもらい、協力的に取り組むことができます。今後も楽しく身体を動かしてもらうとともに、友達との交流を楽しんでもらいます。

 学習面では、切り替えが早く、学習の時間になると自分から机の前に座っています。毎回名前の練習、家庭学習プリント、公文、蝶々結びの練習、音読に取り組んでいます。すべて取り組むと10~15分程の時間になりますが、課題が終わるまで集中して取り組むことができています。名前の練習では、白抜き文字や点線を一人でなぞり書きしています。ポイントとなる部分に赤丸をつけ、意識しやすいよう工夫しています。本児が書いている時に「スーッと長く」「ギザギザ」「くるりん」等、聴覚プロンプトを直前に提示することで書字をサポートしています。この音声刺激によるサポートを始めてから「め」をなぞり書きする際、迷うことなく鉛筆を進めることができるようになりました。公文では、数字を読んだり書いたりする練習をしています。数字をリズムよく順に言うことができています。28など途中から始まる場合でも言い間違えることが少なくなりました。また、数字のなぞり書きでは、名前の練習と同様、意識してほしいポイントに赤丸をつけることで1から4が上手に書けるようになりました。できるようになってきたら徐々にサポートを減らし、赤丸がなくても正しくなぞることができるようにしていきます。音読では、回数を重ねるにつれて少しずつ上手になっています。リズムのよい言葉の部分は特に元気よく読んでくれることが多く、楽しそうにしています。今後も学習のサポートを継続し、できることを少しずつ増やしていきます。

 気になる点は、最近、興奮してしまうことが多い点です。本児への支援を考えるにあたって、なぜ興奮状態になってしまうのか、興奮状態になってしまう人が何に困っているのか、支援のポイントについての基礎的な知識をお伝えします。まず、興奮状態になってしまうまでのメカニズムについてお伝えします。興奮状態になる前に、苦手な環境にいつまで晒されるか分からないという不安があります。本人の特性により、先のことを予測することが難しかったり、やりとりの量が多いと処理が難しかったり、少しの違いで大きな不安を感じたり、感覚の過敏さがあったりし、不安が高まります。不安が高まると、その不安から逃れたい、不安であることを伝えたい、不安であることに気付いてほしいという気持ちを言葉で上手く伝えられず、気持ちを行動で表します。それでも苦手なものが解消されないと、さらに激しい行動をとるようになります。また、関わる側の特性理解の不足により、周囲が誤った対応をとることで行動がさらに激しくなっていきます。

 次に、興奮状態になってしまう人の困り感についてお伝えします。1つ目は、伝えられないもどかしさです。コミュニケーションの特性により、発信が難しいため、誰にどのように伝えたらよいか分からず、困っています。2つ目は、意味の分からない苦痛です。コミュニケーション及び社会性の特性により、話し言葉の理解、曖昧な表現の理解、目に見えない状況の理解が難しいため、意味の分からないことに対して不安やイライラ感が生じ、心の中がモヤモヤして困っています。3つ目は、見通しのもてない不安や恐怖です。想像力の特性により、変化への対応が難しいため、少しの変化に対しても不安な気持ちになり、その気持ちを上手く処理することができず困っています。4つ目は、感覚の特異性です。想像力の特性により、細部が気になり違いに敏感になってしまうため、いつもと異なる部分があると気になって仕方がなく、困っています。

 次に、支援のポイントについてお伝えします。周囲にいる人の理解や配慮により、興奮状態になることを予防したり、既に現れている興奮状態を軽減したり、適切な支援により社会参加を促進したりすることができます。支援のポイントは「いつ」「どこで」「何を」「どのくらい」「どうやって」「次は」を確実に伝えることです。そのためにできる工夫は以下の5点です。1つ目は、時間の工夫です。例えば、ホワイトボードに写真等のプレートを貼っておき、終えたら外すという方法があります。こうすることで生活の見通しをもつことができるようになります。誰かに言われるがままではなく、自分で適切に情報をキャッチし行動できるようにすることが大切とされています。2つ目は、場所の工夫です。例えば、パーテーションで仕切る、クールダウンスペースを設けるという方法があります。場所と活動を対応させて理解を助けたり、苦手な刺激を少なくするための配慮をしたりすることが大切です。3つ目は、方法の工夫です。例えば、歯磨きやお風呂で体を洗う手順を絵で示すという方法があります。4つ目は見え方の工夫です。例えば、見本を用意するという方法があります。見てすぐに分かる情報を提示するために、必要な情報に注目しやすくしたり、見るだけで何をすればよいか分かるようにしたり、情報や材料を見やすく扱いやすいようにしたりすることが大切です。5つ目は、やりとりの工夫です。伝え合い分かり合うコミュニケーションのために、コミュニケーションの成功体験をサポートすることが大切です。これらの支援のポイントは一般的なものであるため、すべてが本児に当てはまるわけではありませんが、本児に合った支援を考える際の参考とし、より適切な支援を模索していくことが大切です。

 以上の基礎的な知識を踏まえた上で、苦手なことには配慮し、得意なことを生かすことを支援の基本とし、本児に対する具体的な支援方法についてお伝えします。ここまでの様子から、本児が興奮状態になってしまうのは、人との関わりに端を発することが多いと考えています。具体的には、「ダメ」と言われたり、プログラムの開始で好きな遊びを止めさせられたり、友達にしつこくされたりした場合に生じます。したがって、これらの本児の苦手な状況をつくらないよう配慮し、できる限り避けられるようにします。ただし、良くないことや周囲が困ることをしている場合はそのままにしておくわけにはいかないので、本児への影響性を確認しながら少しずつ行動を教えていきます。その場合は信頼関係を土台とし、その上で本児が受け入れやすい支援方法を選択していきます。また、本児の興奮状態の前兆として、小さな声を出したり、表情が険しくなったりします。この状態に気付いた場合は、声を掛けるとだんだん興奮してきてしまうので、すぐに声掛けをせず興奮させないよう見守るようにします。自分で感情を抑え、いつもの状態に戻ることができたという経験を重ねてもらい、自分の気持ちと上手く折り合いをつけ、感情を抑える力を少しずつ育んでいきます。また、興奮してしまった場合は、クールダウンスペースに移動してもらう等、落ち着く環境を整えることで、クールダウンすることができるよう配慮します。

 本児は様々な活動に取り組み、楽しく過ごすことができています。今後も本児の良い点をさらに伸ばすとともに、周囲の配慮により興奮することを減らし、落ち着いて過ごすことができるよう支援していきます。

Juri F.

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