項目特定処理の活動を通して語用能力を伸ばし、言葉の表出がよりスムーズにできるようになる
明るく素直で優しく、友達とトラブルになることなく、仲良く過ごすことができています。鬼ごっこやサッカー、ボール当て等、ダイナミックに身体を動かして遊ぶことが大好きです。お絵描きをしたり折り紙で遊んだりすることも好きで、作品をきっちりと丁寧に仕上げることに本児童の繊細さが感じられます。また、ルールに対する意識が高く、自分がそのルールを守るだけでなく、友達にも「〇〇しちゃダメだよ」と柔らかな口調で教えてあげています。運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組み、がんばっています。握力が強いこと、体重のかけ方が上手なことから、綱引きがとても強いです。跳び箱では、怖がらずに勢いをつけられるようになり、縦5段を上手に跳び越えられるようになりました。縄跳びでは、交差跳びがたくさん跳べるようになり、二重跳びも1回跳べるようになりました。集団遊びでは、ルールに沿って積極的に参加し、楽しんでいます。学習の面では、公文・レプトンをがんばっています。公文では、理解力があり、新しい内容もすぐに自分でできるようになります。また、1問ずつ丁寧に取り組むことができるので、計算ミスもあまりありません。レプトンでは、アルファベットそれぞれの文字の音が分かるようになってきて、一人で読める単語が増えました。また、英単語を書くこともスムーズにできるようになり、がんばっています。気になる点は言葉の表出や算数の文章題、国語の読解問題が苦手な点です。以下の取り組みを通じて、気になる点の改善を図っていきます。
「三宅ら(2002)は、発達障がい幼児に情動的交流遊びを中心にしたコミュニケーション指導を行い、指導者と子どもとの間に情動の共有が成立するにしたがい、社会的相互作用の水準、要求の伝達手段、模倣のすべてにおいて向上を示し、コミュニケーション行動の発達が認められた」と、人間関係を重視した言語指導法で報告しています。弊所でも戸外活動や運動エフェクト、自由遊び等、様々な場面で、鬼ごっこやドッジボールなど、楽しいと感じる情動的交流遊びをよく行っています。遊びの中で楽しさや面白さを共有し、本児童との心の距離が縮まったことに伴い、自然発生的な言葉のやりとりも増えてきています。実際に、本児童から話しかけてきてくれたり、質問したことに対して「分からない」と言うことがほぼなくなり会話が少し続くようになったり、帰りの会の発表が以前に比べてスムーズにできるようになったりし、コミュニケーション力が向上してきている実感があります。また、ここ最近は、Show & Tellに挑戦し、家で作ってきた物を見せながら、発表をしてくれます。まだあまり慣れていないので、質問に対して一言答えることが精一杯ですが、このような機会を提供して繰り返し挑戦してもらい、発表することに慣れてもらいます。今後もこれまでと同様、様々な遊びを通して本児童との関係を深めたり、発表の機会を提供したりしてコミュニケーション力を伸ばし、言葉の表出がスムーズにできるようにしていきます。
算数の文章題に関しては、苦手意識があり、あまり考えずに出てきた数字を順番に使ってしまう傾向があります。具体的には、「1つ9円のあめを5個買います。代金はいくらですか。」という問題に対し、「1×9=9」という式を立ててしまいます。まずは、問題の内容を絵に表し、内容をイメージ化する練習をしていきます。初めのうちは、一緒に解きながら「あめはいくらだった?」「いくつ買うの?」等と質問して答えてもらい、絵に表す方法を覚えてもらいます。できるようになってきたら、問題文を一人で読んで絵の穴埋めをすることに移行していきます。そして、徐々に手助けを減らし、最終的には、自分で読んで自分で絵に表すことができるようにし、一人で問題を解けるようにしていきます。
国語の読解問題が苦手な理由を知るため、事前に読む力や内容の理解力があるかどうか別々に確認してみました。本を読む時に読みとばしたり逐次読みしたりすることはなく、スラスラと読むことができたことから、読む力に問題は見られません。また、運動エフェクトで説明や指示を出した時にその通りに動くことができていることから、話を聞くことに困っている様子は見られず、話を聞いて理解する力にも問題は感じられません。読む力も内容を理解する力もあることから考えると、読解問題や文章題が苦手な理由は読むこと及び内容を理解することの二点を同時に行わなければならないことにあるのではないかと考えられます。また、「場面や状況の推移、対人関係の枠組み、ストーリーの展開等の幅広い文脈の中で、言葉を理解したり使用したりする技能(島田,2008)」である語用能力に弱さがあることが言葉の表出が苦手な点にも通じていると考えられます。そこで、以下の知見を参考にして実践を行い、気になる点の改善を図っていきます。
「児童・生徒が示す語用能力の問題は、認知的な関係処理機能に不全が生じたために、文脈が内包する多様な関係情報の符号化が困難になり、文脈に即した言語活動を行うことが難しくなった状態とみなすことができる(島田,2008)」「項目特定処理を中心にした指導を継続的に実施すれば、事例が生来的に有している関係処理機能の弱さに負担をかけず、効率的に指導を進めてゆくことができるため、結果的には意味処理の深まりが関係処理機能の改善に有効な作用を及ぼすことが分かった。関係処理と項目特定処理は意味処理の両翼を担う根源的な認知機能であるため、児童にとって使いやすい項目特定処理機能を用いれば深い意味処理が可能となる。さらに、意味処理の深まりは事象間の関係性への気づきを促すため、関係処理機能の改善が生じてくるのだと結論することができるのである(島田,2008)」と報告されています。
弊所では、運動エフェクトの始めの時間を利用して以下の実践を行い、語用能力を改善させていきます。まず、短い話を読んでもらい、項目特定処理をしてもらいます。登場人物はどんな気持ちだったか、自分だったらどうするか等を質問し、書かれていた内容について自分なりに意味づけをしてもらいます。項目特定処理を繰り返し行うことで、文を読みながら文意を読み取る力を伸ばしていきます。さらに、この実践を通して語用能力が伸びてくると、日常生活の場面においても相手の気持ちを察したり、その場の雰囲気や状況を読み取ったりする力も伸び、コミュニケーション力も向上していくと考えられます。日常生活において言葉の表出がよりスムーズにできるようになることを目標とし、まずは項目特定処理を通じて語用能力の向上を図っていきます。
引用文献
大島光代・都築繁幸(2014).発達障がい児の言語・コミュニケーション指導の研究動向に関する一考察 愛知教育大学大学院・静岡大学大学院教育学研究科 共同教科開発学専攻 2,211-220.
島田泰仁(2008).言葉の表現が困難な児童の関係処理と項目特定処理機能に関する指導事例 鳴門教育大学研究紀要 23,155-166.
Juri F.