非語を読む練習を繰り返し、短い言葉を流暢に読むことができるようになる
素直で優しい性格で、指導員や友達と積極的に関わりながら楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、ごっこ遊びやキャッチボール、風船バレー、バランスボール、鉄棒、ブロック等、様々な遊びをしています。友達に「貸して」「代わって」と頼まれた時には、「いいよ」とすぐに譲るパターンと、「まだ使いたい」と自己主張して5分後に譲るパターンがありますが、その時の自分の気持ちに合わせて選択し、適切に伝えられるようになりました。また、5分後には潔く譲ることができています。おもちゃの貸し借りのルールをしっかりと守ることができ、友達と仲良く過ごすことができています。
運動エフェクトでは、どの種目にも積極的に取り組み、がんばっています。幅跳びでは、自由遊びの時間にも練習し、跳び方が上手になりました。「この線まで跳ぶ」と目標を定めて何度も練習し、がんばり屋さんな面が見られます。短縄の前跳びでは、縄を1回ずつ止めず、連続で跳ぶことができるようになり、とても上手になりました。跳び箱のカエルの一休みでは、以前はこわごわと取り組み片足ずつを乗せていましたが、最近は両足でしっかりと踏み切り、跳び箱の上に両足同時に着地できるようになりました。また、キャッチボールやサッカーが得意で、小さなボールでも落とさずにキャッチしたり、コントロール良く投げたり、勢いよく蹴ったりすることができます。集団遊びでは、ルールに沿った動きをすることができる種目がさらに増え、より楽しめるようになりました。8の字鬼や高鬼では、鬼の動きを見ながら適切に判断することができるようになり、鬼に捕まらないタイミングを考えて上手に移動しています。また、鬼の時も逃げる子との駆け引きが上手くなったり、追いかけるスピードが速くなったりし、すぐに捕まえられるようになりました。
学習の面では、切り替えが早く集中して取り組むことができています。公文では、たし算の練習をしています。数字の下に棒を書き、棒の数を数えて答えを出すという一連の流れを一人でできるようになりました。前向きな気持ちでコツコツと取り組み、力を伸ばしています。
気になる点は、読むことが苦手な点です。聞いたことを真似して言ったり、話したりすることは得意ですが、文字を読むことは苦手で1字ずつ逐次読みをしています。逆唱課題で「ねこ」を「こね」と言うことができないことから、頭の中で文字を操作することも難しいようです。
各務(2016)は、読みの支援をする際どのような支援が必要になるのかについては、個々の認知特性の把握をすることが重要だと述べています。そこで、視覚と聴覚のどちらが優位なのか、読み書きのメカニズムの中でどこに困難があるのかを調べるために各務がRAN(ラピッド・ネーミング:rapid automatized naming)テストを参考にしながら作成したシートを用いて、本児の認知特性を確認しました。イラストを見て物の名前を答えたり、聞いた言葉のイラストを指差したりすることはスムーズにできました。しかし、ひらがなで書かれた単語を読んでもらうと、読み間違いはありませんでしたが、イラストの時よりも大幅に時間がかかりました。また、ひらがなで単語が書いてあるカードの中から聞いた単語が書かれているものを見つけることにも時間がかかり、思い浮かんでいる音と文字とを結びつけることにも困難を抱えているようでした。視覚入力や聴覚入力において、イラストでは脳内で単語音韻列辞書や単語の意味辞書と照合できても、文字では、単語文字列辞書と単語音韻列辞書、単語の意味辞書と照合できない可能性が考えられます(各務,2016)。
イアン・スマイズは、どのような言語にも適用できる読み書きのメカニズムを示しました。読むことに関する文字情報の処理の流れは次の通りです。①視覚(目)から文字情報が入力される。②目から入力された文字情報は大脳のウェルニッケ野で分析される。③分析された文字情報は、脳内の単語文字列・単語音韻列・単語の意味の辞書(心的辞書、レキシコンともいう)で照合される。④照合された文字情報は左前頭葉のブローカ野で処理されて文字や音韻の再生という形で書いたり、話したりという形で出力される。このように、文字情報の入力から出力に至る間にワーキングメモリー領域との関わりや単語文字列辞書・単語音韻列辞書・単語の意味辞書での照合等複雑な過程を経ているとし、読みにつまずいている児童は、この一連の流れの中のどこかの部分で困難をきたしていると述べています(各務,2016)。また、上野(2006)も音韻処理や正書法的処理のどこかに問題があると述べています。音韻処理とは、目から入ってきた視覚情報を、その文字や単語を構成する音と結びつける(分析する)作業のことです。正書法的処理とは、単語を分析するだけでなく、瞬時に理解できることです(各務,2016)。
各務(2016)は、読みにつまずきが見られるということは、まず音韻意識に問題が生じている可能性が考えられ、入力された文字情報と脳の中の辞書とでうまく分析・照合が行われていないためにうまく出力まで達することができないと考えられると述べています。音韻意識の改善のためには、しりとり、音韻削除、音韻合成が有効とされています。したがって、しりとりをしたり、「あ」から始まる言葉を探したり「い」で終わる言葉を探したりするゲームをしたり、「“たぬき”から“ぬ”をとると何が残る?」等のクイズをしたり、「アイスクリーム」から「いす」「くり」「りす」「あり」等を見つける、言葉のかくれんぼゲームをしたりし、言葉遊びを楽しみながら音韻意識を身に付けてもらいます。
従来、発達性読み書き障がい児は非語の読みに困難をもつことが知られています(Rack et al., 1992; Snowling, 2000)。日本における発達性読み書き障がい児に関しても非語の読みに困難を示す例が報告されています(松本,2006; 大石,2007; 辰巳,2007; 山田,1997)。なお、非語とは単語として実在しておらず意味をもたない語のことです。そこで、「つす」「けよ」「むお」等の非語を用いて練習を実施し、非語を流暢に読むことができるようにしていきます。読みの学習の初期は、語が長くなるほど流暢に読むことが難しいが、次第に文字数による違いは見られなくなるとされています(迫野・伊藤,2009)。よって、初めは2文字の非語を用いて練習し、慣れてきたら文字数を増やしていきます。また、子どもはまず語を正確に読むことを覚え、その後たくさんの練習をつんで、流暢に読めるようになります(Shaywitz, 2003)。また、繰り返し同じ語を読むことで流暢に読めるようになると推測されます(迫野・伊藤,2009)。よって、弊所での読み練習でも同じ語を用いて繰り返し練習することを意識します。また、逐次読みと一部逐次読みは、語全体を流暢に読めるようになる前にみられる段階です(迫野・伊藤,2009)。よって、本児の逐次読みも練習を積み重ねることで改善すると考えます。また、「う・さ・ぎ」と逐次読みした後に「うさぎ」と流暢に読むような自己修正後の流暢正反応は流暢に読むための前段階として存在する可能性があるとされています(迫野・伊藤,2009)。そこで、非語の読み練習では、流暢正反応を伴わせながら進めていきます。また、逐次読みを良くないこととせず、逐次読みは流暢に読むことができるための前段階として肯定的に捉え支援をしていきます。また、MIM-PMのテストの「3つのことばをみつけよう」に取り組んでもらいます。これは、「ふくろけしきかたち」を「ふくろ/けしき/かたち」のように3つの単語に正確に分けることができるかを確認するものです。日本語の文章の様に、単語間のスペースがない場合、文章を読み解くためには、正確で速やかな単語認識の力が必要になってきます(迫野・伊藤,2009)。本児は、帰りの会で初めて知った言葉を発表する際、単語で区切ることなく一文を続けて読んでいることから、単語を認識することができておらず、内容が伝わり辛くなっています。3つの単語に区切る課題を通して単語認識力を高め、単語ごとに区切って読むこと、意味を捉えることができるようにしていきます。
以上、しりとり、音韻削除、音韻合成の言葉遊びを通して音韻意識の改善を図るとともに、非語を読む練習や3つの単語に区切る課題を通して読む練習を繰り返し、短い単語を流暢に読むことができるようにしていきます。
引用文献
各務哲人(2016)「小学校通常学級における読みにつまずく可能性のある児童の早期発見と具体的支援」『教育実践高度化専攻成果報告書抄録集』6,115-120.
迫野詩乃・伊藤友彦(2009)「同じ語を繰り返し読ませた場合の幼児における読みの流暢性の獲得」『学校教育学研究論集』20,43-54.
Juri F.