課題分析をして一つ一つできることを増やし、指示を聞くことができるようになる

 明るく人懐っこい性格で、指導員や友達と関わりながら楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、人形で遊ぶことが好きです。途中から友達が仲間入りしてストーリーが変わっても、元のストーリーに戻そうとせず、そのストーリーに合わせた展開をすることができるようになりました。多少のことは柔軟に考えて受け入れられるようになり、友達とのやり取りを続けながら仲良く遊べるようになりました。

 学習の面では、切り替えが早く集中して取り組むことができています。公文では、一定枚数ずつコツコツ取り組み、2学年先進度に到達することができました。教えてもらった解き方に素直で、新しい内容の理解力があり、つまずくことなく進めています。レプトンでは、順調に教材を進め、がんばっています。学習内容が単語から会話文へと変わりましたが、繰り返し言ったり書いたりして覚え、一人で読むことができるようになっています。ローマ字練習では、か行以降の子音字を一人でスラスラと書けるようになりました。鉛筆の持ち方練習では、サポーターをつけて字を書くことにまだ慣れていませんが、前向きに取り組んでくれるようになりました。適宜、本児の手に添えて一緒に書き、どのくらいの力加減、どのくらいのスピードで鉛筆を動かすのかを感覚的につかんでもらいます。

 帰りの会では、初めて知った言葉を発表してもらっています。自分で国語辞典を引いてメモを作成し、発表に向けた準備を一人でできるようになりました。また、メモを見ずに発表することができるようがんばっています。

 戸外活動では、生き物に興味をもっており、生き物探しをしています。バッタやカエル、チョウ、トンボ等、様々な種類の生き物を捕まえることができました。生き物を介して、普段はあまり一緒に遊ばない友達との交流もでき、「〇〇いたよ」「〇〇捕まえたよ」等と元気よく声を掛け合いながら仲良く過ごしていました。また、生き物を捕まえた際、「どこを持てばいいですか?」と尋ね、その生き物とって良い持ち方を確認したり、「もうそろそろ逃がしてあげたら?」という声掛けに素直に応じ短い時間で放してあげたりし、生き物に対する優しさをもっていると感じられることが多くありました。

 運動エフェクトでは、様々な種目に積極的に取り組んでいます。鉄棒の逆上がりでは、柔らかいバーに向かって足を蹴り上げる練習をしています。肘を曲げた状態を維持することも意識しながら成功に向けてがんばっています。最近は、鉄棒や短縄等、得意でないことにも一生懸命取り組むことができるようになりました。集団遊びでは、ドッジボールで球をすばやくよけること、8の字鬼や高鬼で鬼の動きを見ながら適切に判断することが得意です。また、友達と速さを競ったり、チーム対抗戦で友達と協力したりする等、友達との交流を楽しんでいます。

 気になる点は、指示に対し適応的な行動をとることができない点です。一斉指導の場面における本児の様子について、場面ごとにお伝えします。1つ目は戸外活動の場面です。戸外活動では、活動の始めにルールの確認をしたり、活動の終わりに安全に過ごすことができたか確認をしたりしています。本児は集合の合図があっても、皆より少し後ろの方に立っています。また、話を聞く時に、木の根っこや石に乗ってフラフラしていたり、足で枝を折ったりしています。2つ目はRST(リーディングスパンテスト)の場面です。RSTでは、指導員が持つプリントを音読し、下線の引いてある言葉を覚えます。本児は、皆の後ろに離れて座って下を向いており、活動に参加していません。3つ目は運動エフェクトの場面です。始めと終わりの整列時は、全体への声掛けのみで並ぶことができるようになり、改善しました。しかし、取り組み方やルールの説明は聞いておらず、説明されたことと全く別のことをしてしまったり、何をしたら良いか分からず「どうすればいいですか?」と尋ねたりします。また、次の人は立って準備するというルールは未だ守ることができず、個別の声掛けが毎回必要です。4つ目は学習後の自由遊びの場面です。集合の合図があってもなかなか遊びを止められず、おもちゃを触っていたり、友達にちょっかいをかけたり、一人だけ後ろの方(おもちゃの近く)に座ったりしています。5つ目は帰りの会の場面です。「次は○○君」と名前を呼ばれた際、すぐに発表できるようになり改善しました。しかし、友達が発表している時は、手遊びをしたり、友達にちょっかいをかけたり話しかけたりし、友達の発表を聞くことができていません。これらの気になる点を改善するため、一斉指導における様々な場面を課題分析し、個々の構成要素を一つ一つ身に付けてもらうことで、一斉指導において適応的な行動をとることができるようにしていきます。

 課題分析とは、遂行が求められる複雑なスキルを教授できるより小さな単位に分解し、課題を効果的に完了させるために必要な行動順序を確定する手法です(Cooper,J. O.,Heron,T.E.,& Heward,W. L.,2013)。応用行動分析学の課題分析において行動を小さな単位に分解する際には、目に見える単位によって分解します。この課題分析の方法に加えて、その行動要素がどのような知識や技能から成り立っているのかを分析した上で、子どもがその活動や学習課題のどの部分につまずいているのか細部で捉えた実態把握を行うことができれば、複雑に見えるスキルのどの遂行部分につまずきがあるのか、より細かい要素で捉えることができ、その情報を基によりよい支援に結びつけられると考えられます(村岡玲子・霜田浩信,2021)。そこで、本支援計画書では一斉指導において適応的な行動をとる場面を「戸外活動」「RST」「運動エフェクト」「学習後の自由遊び」「帰りの会」と定めて課題分析し、それぞれ5つ、3つ、4つ、5つ、4つの要素に分けました。課題分析の要素をTable1に示します。その中で、現時点できている要素は「戸外活動の①切り替える」、「運動エフェクトの①切り替える」、「帰りの会の③自分の番が来たらすぐに発表する」です。これらの3つ以外の要素は未だできておらず、支援を必要としています。

Table 1

一斉指導場面における適応的な行動の課題分析

戸外活動① 切り替える。
・集合の合図でそこまでにしていた活動を止め、指示に従う。
② 適切な位置に立つ。
・皆から離れた位置に立たない等に気を付ける。
③ 適切に注意を向ける。
・関係のない所を見ず、話している人を見る。
④ しっかりと話を聞く。
⑤ そわそわしない。
・足で石を転がす等の遊びをしない。
・手に触れられる物を手にして遊ばない。
RST①  適切な場所に座る。
・皆から離れた場所に座らない。
②  適切に注意を向ける。
・下を向かない。
・ボーっと関係のない所を見ない。
③活動の意図を理解し、しっかりと取り組む。
運動エフェクト① 切り替える。
・整列の合図があった際、その時にしていたことを止め、指示に従う。
② 適切に注意を向ける。
・話している人を見る。
・お手本を見る。
③ しっかりと話を聞く。
④ 不適切な行動を止める。
・友達にちょっかいをかけない。
・関係のない話をしない。
集合の合図① 切り替える。
・集合の合図でその時に使っていたおもちゃをすぐに置く。
② 適切な位置に座る。
・皆から離れた場所に座らない。
・一人だけおもちゃのそばに座らない。
③ 適切に注意を向ける。
・関係のない所を見ず、話している人を見る。
④ しっかりと話を聞く。
⑤ 不適切な行動を止める。
・友達にちょっかいをかけない。
・おもちゃに触らない。
・関係のない話をしない。
帰りの会① 適切に注意を向ける。
② しっかりと話を聞く。
③ 自分の番が来たらすぐに発表する。
④ 不適切な行動を止める。
・友達にちょっかいをかけない。
・友達に話しかけない。
・手遊びをしない。

 支援の手続きとして、まず自由遊びの時間にソーシャルスキルトレーニングを実施します。好きな物を用いてトレーニングすることによりモデリングの効果が促進されるということからも、本児の好きな人形を用いてソーシャルスキルトレーニングを実施します。本児の状態を人形で再現し、どのようにすれば良いかを考えてもらいます。そして、実際の活動の場面では、事前の声掛けにより、その場に相応しい行動を明確に伝え、適応的な行動を覚えてもらいます。その際、「立つ位置は話している人の正面」というように、より具体的なルールを定め、分かりやすく伝えます。適応的な行動がとれた場合には褒めてその行動を強化し、適応的な行動がとれていない場合は、「○○君の場所はどこだったかな?」などのプロンプト(補助刺激)を行い、少しずつできるようにしていきます。その際、一度に様々な観点を伝えると難しくなってしまうので、優先順位をつけ一つ一つをしっかりと意識することができるよう配慮します。そして、最終的には、全体への指示のみでその場に相応しい行動をとることができるようにします。

 以上、課題分析により具体化された課題に重点を置いて支援することにより一つ一つできることを増やし、一斉指導の場面で適応的な行動をとることができるようにしていきます。

引用文献

村岡玲子・霜田浩信(2021)「発達障がい児における課題分析に基づく実態把握と支援の検討」『群馬大学共同教育学部紀要』70,145-163

Juri F.

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