様々な経験を通して社会性を伸ばし、音声による指示に反応できるようになる
明るく人懐っこい性格で、積極的に友達や指導員と関わり、楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、ブロックや恐竜の人形で遊んだり、ゲームの話をしたりして友達と仲良く過ごしています。ブロックでは、馬やドラゴン等、イメージしたものを形にすることが得意です。また、友達に「こうしたら壊れにくくなるよ」とアドバイスしてあげたり、一緒に組み立ててあげたりする等、優しくしてくれます。恐竜の人形では、友達のストーリーに溶け込むように仲間入りし、徐々に自己主張を増やしていくようにしており、仲間入りの仕方が上手です。また、恐竜で遊んでいる時の口調がとても穏やかで、本児の優しさが感じられます。
戸外活動では、前半は鬼ごっこ、後半はそれぞれの好きな遊びをしています。鬼ごっこでは、元気よく走り回り、楽しんでいます。鬼の時や鬼に追いかけられている時には諦めずに走り続け、がんばっています。後半は野球やハンドベース、サッカー等をしています。野球では、空振りが少なくなり、タイミングよくバットを振ることが上手になってきました。ボールを遠くへ飛ばせることが増えており、本児も自信をもっています。ハンドベースでは、バッター、ピッチャー、守備を交代しながら遊んでいます。ルールが分かるようになり、より楽しめるようになりました。サッカーでは、友達同士で行っているため、ルールがはっきりしないままゲームが始まったり、遊びの中でルールが自然に変わったりしますが、その場に上手く適応し、長く遊びを続けられています。
工作では、説明をしっかりと聞き、がんばっています。クリスマスリース作りでは、分からない所を質問しながら根気よく取り組むことができました。以前は少しでも分からないとイライラし「ぜんぜんわからない」とよく言っていましたが、「ここまではできたけど、この後はどうすればいいですか」と分からない部分を具体的にしながら穏やかに尋ねられるようになりました。
運動エフェクトでは、どの種目も積極的に取り組み、がんばっています。苦手なことにも弱音を吐かずに挑戦できるようになり、マットの後転や跳び箱の台上前転ができるようになりました。また、綱引きで負けそうになったり、お尻歩きでなかなか前へ進めなかったりしても根気よく取り組めるようになり、思うようにいかなくてもがんばり続ける心の強さが感じられるようになりました。集団遊びでは、しっかりとルールを守り、楽しく参加することができています。勝ちへのこだわりが少なくなり、チーム対抗戦で負けても人のせいにしなくなったり、鬼ごっこで鬼になっても悲しくならずニコニコしながら続けられるようになったりしています。このような様子から、これまでとは異なる、より適応的な捉え方をする力が伸びています。RSTでは、慣れてきて下線の引いてある言葉を少しずつ覚えられるようになり、前向きに取り組んでくれています。音読では、はきはきとした声で読むことができ上手です。読み間違いが多めですが、その都度伝えると正すことができます。クイズでは、すぐに思い浮かばなくても記憶をたどって思い出せることがよくあります。クイズとして楽しめているので、今後も継続し、読解力を伸ばしていきます。
学習の面では、切り替えが早く集中して取り組むことができています。公文では、復習しながら少しずつ教材を進めています。直しの際に感情が高ぶることが少なくなり、落ち着いて取り組むことができています。英語学習では、繰り返し発音練習をし、前向きにがんばっています。色の尋ね方や答え方の単元では、一人でリズムよく読むことができるようになりました。書く活動をがんばっており、いつも丁寧な字で書いてくれています。テストでは、まだ一文を覚えることは難しいですが、何度も出てきている単語の中には「これはもう覚えているよ」と言うものも出てきており、少しずつ力がついてきています。
気になる点は、音声による指示に対する反応が弱い点です。例えば、片付けの指示があった際、遊びを止めることなく、そのまま続けています。その後、個別に声掛けをしても返事はするものの行動は変わらず遊びを続けています。また、学習終了後に終わったことを報告するルールがあり、毎回「終わった子は言いに来てください」と呼びかけられていますが、毎回忘れてしまいます。さらに、運動エフェクトのルール説明を聞いていないのか、ルール説明直後に同じ内容を質問します。本児に相手を無視しよう、反抗しよう等の悪気があるわけではありません。目で見て理解することは得意ですが、言葉を聞いて理解することは苦手等の自閉症の特性から、これらの症状が発現していると考えられます。
自閉症は社会的刺激の処理の神経基盤が異なるとされています。元々他者に対する注意が弱く、声掛け等の他者からの刺激に対しても重要感をもちにくい傾向があります。また、元々もっている困難さや興味の無さにより、他者に対する自発的な注意や選好の欠如が生じます。それに伴って、処理経験が不足し、脳機能の非定型性が増すことによって、困難さの増加や更なる興味の減衰が生じます。このような負の循環はその子自身の生きづらさにつながってしまいます。このような負の循環を止めるためには、他者との関わりが重要です。社会性やそれを支える脳機能は、他者との関わりを通して発達が進むとされているからです。本児は元々一人で遊んでいることが多くありましたが、最近は友達と一緒に遊んだり話したりする等、他者と積極的に関わりをもつようになり、良い方向へ進んでいます。今後も現在の良い状態を維持できるよう見守っていきます。
自閉症の対応としては、分かりにくい世界の意味を理解してもらうための視覚的構造化(見えないものを見えるようにする)が重要です。気持ちや意図、文脈、暗黙の了解等、埋もれている情報を言語化して伝えることによって、本児が世界を理解することを手助けすることができます。教育面では、学習面の困難さが行動面の困難さにつながるとされています。現在、本児は公文や英語学習を通して力を伸ばし、自信をもっています。個別の対応も含め失敗させないことが大切だとされていることからも、今後も丁寧に学習のサポートを実施し、自信をもっている状態を維持できるようにしていきます。また、自閉症児は全部を処理しようとするため複数の刺激を同時に処理することができないという特性にも配慮してサポートしていきます。さらに、IQの高さだけでなく、コンプライアンスも重要だということを本児に伝え、指示されたことに対して行動を実施できたか、ルールを守ることができたかという視点からの声掛けを増やし、意識してもらえるようにしていきます。
本児は活動に積極的に取り組み、運動・学習・対人関係等、様々な面で力を伸ばしています。今後も楽しく生き生きと過ごしてもらいながら社会性を伸ばし、他者からの刺激に対する重要感を高め、音声による指示に反応できるようにしていきます。
Juri F.