様々な経験を通して道徳性の発達を促し、不適切発言や不適切行動を減らす
明るい性格で、友達と積極的に関わるようになり、楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、カプラでボール転がしを作ることがよくあります。「こうやって1段ずつ高くしていくんだよ」「壊れやすいから気を付けて」等と友達に作り方や留意点を伝えながら、協力して作っています。友達が誤って崩してしまっても「すぐ直るから大丈夫だよ」と優しい声掛けもすることができます。
戸外活動では、前半は鬼ごっこをしています。決められた範囲を守り、元気よく走り回っています。以前は、活動後半の自由時間になると、友達と遊べずレジャーシートに座っていることが多くありましたが、最近は自分から友達に声を掛けて仲間入りし、虫捕りやサッカー、野球等をして友達と仲良く過ごせるようになりました。
運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組み、がんばっています。記録会では、ドリブル100回を合格することができました。現在はV字ドリブルに挑戦中で、しっかりとVの形になるように意識して練習をがんばっています。反復横跳びでは、線を意識して取り組むことができ、安定して好記録を出すことができています。短縄の二重跳びでは、連続で2回跳べるようになりました。手首を上手く使い、縄を速く回すことができます。集団遊びでは、ルールを守って楽しく活動することができています。風船バレーでは、相手コートの枠内に入るよう上手に打ち返すことができます。椅子取りゲームでは、音楽を集中して聞き、音楽が止まると素早く反応することができます。負けてしまっても潔く移動することができます。台風の目では、コーンを何周回るかきちんと指示を聞き、正しく行うことができます。チームに協力的で好感が持てます。
学習の時間は、落ち着いて取り組むことができる日が少しずつ増えています。以前は「友達の声や音が気になる」「落ち着かない」と言って歩き回ったり別の机で学習したりしていましたが、友達と一緒に遊ぶことが増えてから、友達と一緒の机で取り組みたいという気持ちをもつようになりました。それに伴い、急に大声を出したり乱暴な振る舞いをしたりすることが少なくなり、落ち着いて取り組めるようになってきました。
気になる点は、「○○君は気持ち悪い、隣に座るのが嫌だ」等、友達を傷つける発言が多い点、気に入った友達に対して過剰に接触し、相手が嫌がっていることに気が付いていない点、服やパンツを脱ぐ、奇声をあげる等の人が嫌がることをする点、おもちゃを投げる、机をひっくり返す等の危険な行為をする点です。このような自己中心的な発言やほしいままの行動は、まだ道徳的判断が未学習な状態であることから生じていると考え、今後様々な経験を積み重ねていくことで道徳性を一つ一つ身につけていく必要があります。以下に道徳性の発達に関する理論及び支援方法について、向社会的道徳的判断、役割取得理論、社会的情報処理理論の観点からお伝えします。
まず、向社会的道徳的判断についてお伝えします。Eisenberg(1992)によると、向社会的道徳的判断とは、他者に利益となるようなことを意図してなされる自発的な行動(援助行動、分配行動、他人を慰める行動等)と定義しています。また、向社会的道徳的理由づけは、段階が上がるにつれて、他者の視点、および、愛他心に関連する抽象的な価値に対する理解や、自分の行動が他者に見られているということに対する理解が、より発達したものになると述べています。したがって、支援の方法としては、大人自身が向社会的行動のモデルとなり、また、こどもが向社会的行動を示す機会を作ることです。そして、日々の生活の中で、こども自身の行動やその行動によって生じる他者の感情にこどもの目を向けさせたり、行動の問題点や他者の感情、あるいは、他者のためになるような行動や問題となった行動を償うような対応はどのようなものなのか、なぜそのように対応したらよいのかといったことを、こども自身に考えさせたり、必要に応じて大人が説明します。(小嶋,2016)。大人自身が、困っている人を助ける、仲間に上手く入れない子を誘う等の向社会的行動を行うモデルとなり、本児がどのように振る舞えばよいかを経験の中から学んでもらいます。また、良くないことをしてしまった場合には、相手が先にした等の言い訳をせず、自分がしてしまったことに対して償う対応の学習をしてもらいます。本児が考えても対応が思い浮かばない場合には、相手の気持ちや望ましい対応法を説明します。また、ソーシャル・スキル・トレーニングを実施し、適切な振る舞い方を習得してもらいます。
次に、役割取得理論についてお伝えします。役割取得能力とは、相手の立場に立って心情を推し量り、自分の考えや気持ちと同等に他者の考えや気持ちを受け入れ、調整し、対人交渉に活かす能力のことです(荒木,1992)。小学校低学年のこどもの多くは、自他の視点を区別することはできるが、これらの視点を同時に維持することは難しい段階にある。しかし、その後、人はその人独自の価値観や目的をもっているため、考え方や感じ方が異なることに気づき、他者の視点から自分を内省できるようになる。また、中学校入学前後の時期に、第三者の視点をとることができるようになり、第三者の立場から自他の視点や相互作用を考慮できる段階に至る。さらに、多様な視点からの理解や、本人も気づかないような思考や感情の理解は、早くて中学3年生頃、多くの場合は高校入学以降になってから達すると考えられています(渡辺,2001)。したがって、こどもがどこまで理解しているかを考慮することが必要です。その上で、理解が不十分な部分は丁寧に言語化する、こども自身に考えさせる時間をとることが大切です(小嶋,2016)。尚、本児には、無視、仲間はずれといった行動は見られません。この無視、仲間外れは、他者の認知や感情を推測する力があって可能になると考えられています(松尾,2002)。このことからも、本児の現在の不適切行動は相手に嫌がらせをしようとしているわけではなく、他者の認知や感情について未学習であることが原因であると考えられます。したがって、理解不足な面を丁寧に言語化し、他者の感情に目を向けられるよう支援していきます。
最後に、社会的情報処理理論についてお伝えします。Lemerise & Arsenio(2000)は、Dodgeの社会的情報処理モデルに感情と認知を統合したモデルを提唱しました。モデルの最初の2つのステップは、人は直面する対人的状況において生じていることやその原因を理解しようとします。3番目のステップでは、前のステップの結果や長期記憶内の知識や経験に基づき、その状況での目標を明確にします。4、5番目のステップでは、その状況で可能な反応を考え、効力感や実行した際の結果(人間関係、効果等)に照らし合わせて、実行に移す反応を決定します。最後のステップで、決定した反応を実行します。また、社会的知識は社会的情報処理全体に影響します。したがって、道徳的行為の実行を促すには、社会的知識、特に道徳に関する知識や、領域概念の適切な発達を促すことも重要です(小嶋,2016)。また、星(2003)は、感情について話すことは、感情についてのさまざまな情報を子どもに直接教えることになるため、子どもの感情の発達にとって重要であると述べています。こうした、こども自身による、あるいは、大人の支援を得ながらの、感情の言語化や感情調整の練習は、より適切な社会的情報処理につながります(小嶋,2016)。今後、新たな考え方を教授したり、実践を通して自己感情や他者感情への気づき、感情の言語化や感情調整の練習を実施したりし、より適切な社会的情報処理ができるよう支援していきます。
本児は、気になる点はいくつかありますが、向上点も多く、この半年間で大きく成長しました。特に、褒められたい気持ちを強くもっており、褒められると更にがんばる姿が多くみられます。今後、様々な経験を通して不適切発言や不適切行動を減らし、道徳性の発達を促していきます。
引用文献
小嶋佳子(2016).道徳性の発達支援―心理学的知見の活用― 愛知教育大学研究報告教育科学編 65,117-125.
Juri F.