楽しい環境を提供し、要求言語を引き出す
明るく穏やかな性格で、ニコニコと楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、様々なおもちゃで遊ぶことが好きです。特定のおもちゃにこだわることはなく、目に入ったもので少しずつ遊んでいます。中でも、ミニカーや電話機、ピザを気に入っており、自分でおもちゃの棚から毎回出してきて遊んでいます。電話機で遊んでいるところに近づいていくと、一緒に遊ぼうというように、電話の子機を棚から出してきて渡してくれました。ピザは、お皿にのせて走り回っています。時々友達がいたずらでピザを半分持っていったりすると友達を追いかけ、返してもらうとにっこりとしています。また、困った時には、指導員の所へ来て、ピザを持っている友達を指差し、返してほしいということを動作で伝えることができます。最近は、友達のしていることに興味をもつようになり、一緒に遊び始めたり、真似したりすることが多くなりました。例えば、友達がカプラで作った滑り台で玉を転がしているところに本児も加わったり、友達の隣でタワーを組み立てたりしています。そっと積むことが上手で、高く積み上げることができました。今後も、本児の好きなことを一緒にしたり、友達のしていることに誘って遊びの幅を広げたりし、人と関わりながら楽しく過ごせるよう支援していきます。
戸外活動では、公園に行き、元気よく過ごしています。公園で遊ぶことが好きで、活動を楽しみにしてくれています。「出かけるよ」と声を掛けると、その時にしていた遊びをすぐに止め、さっと一人で準備することができます。公園では、サッカーボールをパスしたり、木の根の上を歩いたり、木の実を集めたりして過ごしています。また、見つめる、近寄った後逃げながら振り返る等の動作をし、男性指導員に遊んでほしいことを自分からアピールするようになっています。友達の集まっている所を指差しながら「○○君達、何をしているのかな」と声を掛けると、走って見に行くようになり、友達がしていることにも興味を示すようになりました。また、危険防止のため、岩の上には行かないというルールがあります。以前は、「危険だから岩の上に上らないで」と声を掛けても上ってしまうことがありましたが、最近は、行こうとした時に声を掛けると、止めることができるようになりました。片足を岩の上にのせて「行きたい」という気持ちを表した上で、指導員の顔を見て止めることもあり、ルールや人を意識できるようになってきています。以前は、発音が曖昧で本児が話したことを聞き取れませんでしたが、最近は、聞き取れる言葉が少しずつ増えています。具体的には、友達が捕まえたカエルを見せると「カエル!逃げろー」と言って走り出したり、花を探している友達の後をついていき「どこかなー」と言ったりしています。今後も、楽しく遊びながら、安全面のルールを守ること、あいさつの時に集合すること、話を聞くこと等、少しずつ集団行動に必要な力を身に付けられるよう支援していきます。
伸ばしたい力は、言葉を使って伝える力です。絵辞典のイラストを指差しながら「これなあに?」と尋ねると「バス」「ハンバーグ」等と答えてくれたり、絵本を自分で指差しながら物の名前を言ったりすることは増えていますが、要求を言葉にすることは、まだありません。今のところ「○○してほしい」「○○を取ってほしい」のような要求は、動作で伝えてくれます。「取って、だよ」と真似してもらおうとしても、真似することはまだありません。そこで、本児から要求言語を引き出すために、以下の手続きを実施します。
一つ目は、般性好子を確立します。抱っこやくすぐり等の身体接触を伴う遊びを通して関係をつくり、人の刺激が好子として機能するようにします。そして、人と関わると楽しいな、人って温かいなと思ってもらえるようにします。本児は、先にお伝えしたように、遊んでほしいことを自分からアピールしたり、遊びに誘うような行動をしたりする等、人との関わりを自ら求めることが既にできており、この段階は達成しています。
二つ目は、要求行動を形成します。遊びの中で「もっと○○してほしい」と相手に伝えられるようにします。本児は、ピザのおもちゃが好きです。通所し始めた頃は「ピザをちょうだい」と声を掛けても反応がありませんでしたが、その次の利用日には、声を掛けるとピザを差し出してくれるようになりました。そして、その次の利用日には、本児がピザを持ってきてくれた時に、指導員がピザをパクっと食べてなくなる遊びをしました。本児はこの遊びを面白がり、「もう一回」というように、自らピザを持って来てくれる行動が何度も見られました。言葉は発しませんでしたが、この動作の中に「もっと○○してほしい」という要求が感じられました。他にも、本児が扉の陰から少し顔を出して見つめていたことに気付いた男性指導員が本児を追いかけ、捕まえた時にくすぐるという遊びを楽しんでいました。この遊びもとても気に入っていて、繰り返し指導員を誘っていました。遊び以外の面では、昼食時に使うお盆など、取ってほしいものがある時に、近くにいる指導員にその物を指差して伝えてくれています。要求行動は既に多くあり、この段階も達成しています。
三つ目は、聞き手行動学習に取り組みます。聞き手行動とは、音声刺激が提示された時にその音声刺激に対し適切な反応が出現することです。音声刺激を弁別刺激として提示し、対応する行動が生起したら般性好子を随伴させることで、聞き手行動を形成していきます。初めの頃は、声を掛けても反応がありませんでしたが、最近は応じてくれることが増えています。例えば、「お茶を(かごに)置いてきてね」「休憩だよ。お茶飲んできてね」「お昼の準備をしてね」「お片付けしようね」等の言葉にすぐに応じてくれるようになりました。しかし、名前を呼ばれても反応がない時もまだあります。声を掛けた時に応じてくれた場合や「○○持ってきて」等の簡単なお手伝いをしてくれた場合に、ほめたり感謝を伝えたりし、声掛けに応じることの定着を図っていきます。
四つ目は、動作模倣の学習をします。人の動作を真似した時に、周囲の人がほめる、笑う等般性好子を提示することで、動作模倣を形成します。本児は友達の遊びに興味を示し、真似することがよくあります。本児が友達の遊びを真似した時に笑顔を送るなど、真似することは良いことなのだと感じてもらえるようにしていきます。
五つ目は、音声模倣学習に取り組みます。本児の発声に対して大人が同じように発声し、その時に笑顔やくすぐりなどを随伴させていくと、次第に大人の発声を子どもが真似するようになります。現段階では、音声模倣をしたことがありませんが、この手続きを実施し、言葉を真似することを覚えてもらいます。そして、日常的な要求場面において、本児の要求や思いを察し、「お盆ください」「もう一回」「貸して」等、その状況に合う言葉を伝え、真似して言ってもらいます。
以上、5つの手続きを繰り返し、本児から要求言語を引き出し、言葉を使って伝える力を伸ばしていきます。
Juri F.