文節単位読み訓練手続きを用いて、文章をよりスムーズに読むことができるようになる
本支援計画書では、はじめに、良い点及び気になる点、次に、読む行動に必要なスキル及び読む行動を改善するための取り組み、最後に誤学習を予防するために配慮する点についてお伝えします。
はじめに、良い点及び気になる点についてお伝えします。明るく活発な性格で、様々な活動に積極的に取り組むことができています。対人関係の面では、人懐っこい性格で、初対面の人にも自分から元気よくあいさつをすることができます。友達と一緒に遊ぶことが大好きで、仲良しの友達ができました。自由遊びの時間は、高鬼やだるまさんが転んだ、ボール転がし鬼等をよくしています。「○○しよう」と友達に積極的に声を掛け、仲良く過ごすことができています。また、自分から「ありがとう」「ごめんね」と言うことができる素直な心をもっています。
コミュニケーションの面では、旅行のことや工作のこと、遊びのこと等、色々なことを話してくれます。話題は次々に変わりますが、話したいことが多くあり、次々に言葉が湧き出てきます。また、Show & Tellが好きで、積極的に取り組んでいます。自分の好きなものを家で作ってきて、嬉しそうに発表しています。勝手に進めず指導員の指示に続いて発表すること、一度に色々な話をしないことに気を付けて練習しており、少しずつ上手になってきています。帰りの会では、初めて知ったこと、または最近気になっていることの発表をしてもらっています。以前は好きなことを自由に話していましたが、最近は社会や理科の授業で習ったことを発表する等、求められている内容に少しずつ近づいています。
学習の面では、切り替えが早く、すぐに準備して席に着くことができます。その日の課題や順番の確認を行って見通しをもつと、スムーズに進めることができます。公文では、たし算の練習をがんばっています。たす数に注目して計算し、一人で解くことができるようになりました。スタディサプリの文章題では、指導員と一緒に問題を読み、絵に表す練習をしています。最近は、指導員が「ボートに2人ずつ乗っているから…」等、問題の状況を説明しながら絵を描き始めると、「僕が描く」と言って、絵の続きを自分で描いていくことができるようになりました。レプトンでは、前向きに学習に取り組み、多くの単語を覚えることができます。既に知っている言葉と関連付けたり、動作と一緒に覚えたりする等、単語を思い出しやすいよう工夫し、楽しく学習しています。アルファベットの練習では、お手本を見て大きさや赤線との位置関係に気を付けながら正しく丁寧に書くことができるようになりました。
運動の面では、身体を動かすことが大好きで、様々な種目に積極的に取り組んでいます。跳び箱が得意で、縦5段を跳び越えることができるようになりました。長縄では、回っている縄を見てタイミングよく入ることができるようになり、上手に跳べるようになりました。短縄では、苦手意識からふざけてしまうことがよくありましたが、最近は練習に取り組んでくれるようになり、少しずつ上手になってきました。集団遊びでは、ルールの理解力があり、ルールに沿って楽しむことができています。鬼ごっこでは、以前は鬼になると止めてしまうことがありましたが、最近は鬼になっても続けられるようになりました。自分の気持ちと上手く折り合いをつけ、適応的な行動をとれることが増えています。チーム対抗戦では、同じチームの子と協力し、早くゴールすることができるようがんばっています。ここまでは、「ヤッター」等、自分の気持ちを表すに止まっていましたが、最近では、「勝ったね、やったね」と同じチームの子に声を掛け、喜びを共有しています。
気になる点は、文をスムーズに読むことが難しい点、誤学習が生じている点です。何度も読んでいる文は暗記しているのでスラスラと読むことができますが、Show & Tellの原稿やスタディサプリの問題等は逐次読みになります。「何て書いてあるの?」と尋ねることが多く、自分では読みたがらないこともあります。また、苦手なことに対して、ふざけたり「やりたくない」と言い張ったりすることがあります。
まず、スムーズに読む行動に必要なスキル及び読む行動を改善するための取り組みについてお伝えします。読む行動以前に必要とされるスキルとして、話し言葉の確立があります。言葉の発達を促すために大切なことは以下の2点です。1点目は、アイコンタクトや指差し、要求行動等、非言語コミュニケーションが円滑に行えるようになってから言語を導入することです。言語を導入する前に、共同注意を意識して生活し、相手と同じ物を見ることができるようにしたり、相手に伝えたいという気持ちを育んだりすることが大切です。共同注意の長さが理解言語の発達につながると言われており、共同注意は言語の発達に深く関係しています。2点目は、言葉の理解と表出の度合いを確認します。話せないことは分からないという捉え方はせず、聞いて分かることと話せることがそれぞれどの程度かを知っておくことが大切です。話し言葉は読む行動の土台となるもので、読む力を伸ばすために予め備えておくべきものです。
読む行動に必要なスキルは以下の5点です。1点目は、音韻意識の学習です。音韻意識とは、その言葉がどのような音で構成されているかを認識したり、その音を操作したりすることです。その言葉がいくつの音で構成されているかは、グリコのようなゲームをしたり、言葉の文字数に合わせて手を叩いたりすることを通して身に付けることができます。また、どのような音で構成されているかは、しりとりをしたり「〇から始まる言葉」「〇で終わる言葉」の言葉集めをしたりすることを通して身に付けることができます。また、音の操作は、「れいぞうこの中にはゾウがいる」「かばんの中にはカバがいる」等のクイズをしたり、「くりすますかい」から「すいか」「くま」「りす」等を見つける言葉のかくれんぼゲームをしたりすることを通して身に付けることができます。このように、音韻意識は遊びを通して楽しみながら身に付けることができます。この音韻意識が発達することで、文字の学習や正しい発音につながると言われています。2点目は文字と発音の対応関係の学習です。1文字に1音の対応を理解し、発音とひらがな1文字1文字を結び付けると、ひらがなを読むことができるようになります。3点目は、新しい語彙の学習です。4点目は、文章理解方略の学習です。文章を声に出して読むだけでなく、読んでいる内容を理解することができるようになります。5点目は、読みの流暢性の獲得です。文章をスラスラと読むことができるようになります。これらの知識を踏まえ、言葉遊びを楽しみながら、読み能力向上に必要な音韻意識を少しずつ伸ばしてもらいます。
読みの支援方法を考えるにあたって、本児が現時点でどのくらい読むことができるか確認をしました。ひらがなで書かれた絵本の1ページを読んでもらいました。途中で別の方を見たり身体を揺らしたりする等、落ち着きがなくソワソワしていましたが、一人で読むことができました。文字を一つ一つ拾ってゆっくりと読む逐次読みをする部分と、「たべました」のようにスムーズに読む部分がありました。読み間違いや読み飛ばしはありませんでした。文章の読み理解の成績が低いと行動問題の生起につながること、文章の読み理解の成績が向上すると社会性スキルの獲得が促進されることが分かっています。そこで、ひらがなの文をよりスムーズに読むことができるよう、以下の支援をしていきます。
1つ目は、「繰り返し読み(repeated reading)手続き」(Ambruster,Lehr,& Osborn,2003; National Institute of Child Health and Human Development,2000)を行います。「繰り返し読み手続き」は、短くて意味のある文章を一定水準の速さになるまで何度か繰り返し読む方法です。この指導を用いることで、文章の読み困難児において、文章読みの正確性と流暢性が改善されるだけでなく(Ambruster et al., 2003; National institute of Child Health and Human development,2000)、文章の内容理解が向上することが示されました(Jenkins,Fuchs,van den Broek,Espin,& Deno,2003; Therrien,2004)。
文を読むことが苦手な子は、連続した音声発話と視線移動が困難だと言われています。Omori and Yamamoto(2011)は、視線追従装置を用いて、生活年齢が9歳と11歳の定型発達児2名と、生活年齢が12歳と13歳の知的障がいのある自閉症児2名の文章を読んでいるときの視線パターンを分析し、比較しました。その結果、定型発達児が文節を単位に視線を移動させているのに対し、自閉症児は文字を単位に視線を移動させていることを明らかにしました(中川・大森・菅佐原・山本,2013)。
一般的に、文章の読むべき部分を、指さしをして指示することが多々あります。しかし、知的障がいのある自閉症児は指をさした部分や、文章上の単語に視線を合わせて読み進めること自体が難しいこと(Omori & Yamamoto,2011)や、視覚と運動の協応の苦手さがあるため、文章を読む際に指さしをしながら視線を誘導する指導が難しいと考えられます(中川・大森・菅佐原・山本,2013)。従って、文章を読む際によく指さしをしながら読むことを推奨されますが、指さしをしながら読むことは、目・口・手の3つの部分を連動させなければならず、読みが苦手な子には難しいと認識しておくことが必要です。
2つ目は、「文節単位読み訓練手続き」(中川・大森・菅佐原・山本,2013)を行います。これは、文章を構成する文節を元々の位置関係を保持したまま時系列に提示し、文節を単位として繰り返し読む訓練方法です。この訓練手続きを行うことで、読みの流暢性、読みの正確性、読みの理解得点で向上が見られた(中川・大森・菅佐原・山本,2013)と報告されています。パワーポイントを使って文節ごとに表示することで、視線移動を補助するとともに、一度に目に入る情報を減らします。この訓練を実施することで、文字ではなく文節に注目して読むことができるようになります。
最後に、誤学習を予防するために配慮する点についてお伝えします。学習の失敗経験により、意欲が低くなりがちになったり、積極性があまりなく他者に依存しがちになったりする等の誤学習が生じてしまいます。一度誤学習してしまうと直すのが難しいと言われており、誤学習を予防することが大切です。本児は、「やりたくない」と言い張ったり、鬼になるとすぐに「代わって」と泣いたりする等、これまでに誤学習と思われる行動がありましたが、頑張ったことやうまくできたことを褒めてもらうことで、まだ完全ではありませんが、自分の気持ちと上手く折り合いをつけて適応的な行動がとれることが少しずつ増えてきています。今後、誤学習により維持されている不適応行動を減らすとともに新たな誤学習を予防するために配慮する点は、以下の3点です。1点目は、分かりやすいきっかけを作り、成功体験を積み重ねられるよう配慮します。その場で何をすればよいか分からないと誤学習が生じやすくなるので、何をすべきかを明確に示したり、次の行動のヒントを与えたりし、成功体験を積み重ねられるようにします。2点目は、目標設定を本人に合わせることに配慮します。目標設定が高すぎると褒める機会が減り、不適応行動が生じるという悪循環に陥ってしまうからです。現時点のその子ができることを見極め、それに取り組んでもらうことで褒める機会を増やします。3点目は、様々なことに前向きに取り組む心を維持できるよう配慮します。子どもには「自分は何でもできる」と自己を肯定的に捉える素朴楽天主義があります。この根拠のない自信は、できないことにも積極的に挑戦する原動力になるもので、とても大切な考え方です。その後、「自分は何でもできる」は、「できるようになるには努力と練習が必要だ」という努力依存型の楽天主義に移行します。自分はできる、がんばればできると信じて繰り返し挑戦することができる時期において、繰り返し挑戦した結果、「できた」という経験を積み重ねることが重要です。本児は現在、運動や学習、発表等、様々な活動に積極的に取り組むことができていますが、苦手なことに対して「やりたくない」と言い張る面もあります。今後学年が上がるにつれて、できることが増える一方、がんばっても上手くいかないという壁にぶつかることが出てくるかもしれませんが、そのような時にも挑戦する心、素直にアドバイスを受け入れる心、根気よく取り組む心をもつことで、その壁を乗り越えることができます。今後も、たとえ上手くいかなくてもがんばった所や良かった所に注目して認める等、次の挑戦の後押しをしていきます。また、失敗や間違い方のパターン及びつまずくポイントを予め把握し、先手を打って失敗や間違いを減らし、様々なことに前向きに取り組む心を維持することができるようにします。
以上、良い点及び気になる点、読む行動に必要なスキル及び読む行動を改善するための取り組み、誤学習を予防するために配慮する点についてお伝えしました。言葉遊びを通して読みの土台となる音韻意識を伸ばしたり、「繰り返し読み手続き」(Ambruster,Lehr,& Osborn,2003; National InstituteofChild Health and Human Development,2000)や「文節単位読み訓練手続き」(中川・大森・菅佐原・山本,2013)を用いて、ひらがなの文を読む練習をしたりし、文をスムーズに読むことができるようにしていきます。その際、適切な目標設定により成功体験を積み重ねてもらうとともに、前向きに取り組む心を維持できるよう配慮します。これまで、本児は運動・学習・コミュニケーション面において、できることが増え、大きく成長しています。今後も様々な活動を楽しんでもらう中で、できることを増やし、更なる成長を促していきます。
引用文献
中川浩子・大森幹真・菅佐原洋・山本淳一(2013)「知的障がいを伴う自閉症のある生徒における文節単位読み訓練の効果」『特殊教育学研究』51,269-278
Juri F.