蝶々結びができるようになるー応用行動分析の課題分析を用いた行動形成ー

 明るく活発な性格で、様々な活動に積極的に取り組み、楽しく過ごすことができています。自由遊びの時間は、キャンプごっこをしたり、鉄棒をしたり、車のおもちゃで遊んだりしています。人と関わることが大好きで、友達や指導員に積極的に話し掛け、コミュニケーションを楽しんでいます。自分の意見を伝えるだけでなく、友達の提案も肯定的に受け止め、仲良く過ごすことができています。また、片付けの際には、片付ける物が残っていないかチェックする姿が見られるようになり、最後まで片付けに参加してくれるようになりました。

 学習の面では、切り替えが早く、集中して取り組むことができています。公文では、ひき算の練習をしています。指を使って数えながら一人で解くことができるようになりました。計算ミスがほとんどなく、落ち着いて取り組むことができています。レプトンでは、意欲的に取り組みがんばっています。記憶力が良く、多くの単語を覚えることができ自信をもっています。アルファベットを書くことにも慣れてきており、なぞりだけでなく、お手本を見ながら書くこともできるようになりました。以前は少し難しい問題があったり量が多かったりすると「できない」「やりたくない」と言っていましたが、最近は「僕、これできるよ」と肯定的な発言が多くなり、宿題、公文、スタディサプリ、レプトンの流れで一日分の課題をスムーズにこなし、がんばっています。公文・レプトンを通して分かることやできることが増えて自信がつき、前向きに学習に取り組めるようになりました。また、最近は漢字に対する興味が増しており、看板や標識に書いてある字を読んだり部首の話をしたりすることが多くなりました。「『梅』は『木』と毎日の『毎』だね」「『瞳』は目偏に児童の『童』だね」等のように、漢字を分解して話すことが増え、全体だけでなく部分を捉えられるようになりました。また、帰りの会の初めて知った言葉の発表に向けて国語辞典で調べるようになってから、「〇〇って何?」と尋ねるだけでなく、「辞書で調べて発表するね」と言うことが多くなりました。実際に、友達が言った言葉やテレビのコマーシャルで聞いた言葉、看板に書いてあった言葉を調べて発表しています。

 運動エフェクトでは、積極的に取り組み、楽しく活動することができています。記録会で繰り返し取り組んでいるドリブルでは、落ち着いて取り組めるようになったことで力加減の調整が上手くなり、この半年間で11回から55回に記録が伸びました。幅跳びでは、個別に練習をしてコツをつかみ、この半年間で75cmから123cmに記録が伸びました。開いて閉じてでは、お手本をしっかりと見ること、ペースを合わせることに留意して練習し、ゆっくりであれば6拍子の動きを一人でできるようになりました。長縄しりとりが得意で、最後まで残ることができることもあり、自信をもっています。鉄棒の逆上がり練習では、柔らかいバーに向かって足を振り上げる練習をしたり、アドバイスを素直に聞き入れたりし、がんばっています。おへそが鉄棒についた状態で逆さまに直立するところまで補助無しでできるようになっており、成功に大きく前進しました。集団遊びでは、ルール理解力があり、ルールに沿って楽しむことができています。以前は椅子取りゲームや鳥かごで負けてしまった時や安全面のルールを守ることができない時に、声を掛けられても受け入れられずそのままゲームを続けていましたが、最近は負けた時にさっと待機場所へ移動すること、アドバイスを受け入れることができるようになりました。このように、運動エフェクトを通して運動能力の向上だけでなく、情緒面でも大きく成長しています。今後も運動を楽しんでもらう中でさらなる成長を促していきます。

 蝶々結びの練習では、応用行動分析の手法の一つである課題分析を用いて行動形成を行いました。課題分析とは、遂行が求められる複雑なスキルを教授できるより小さな単位に分解し、課題を効果的に完了させるために必要な行動順序を確定する手法です(Cooper,J. O.,Heron,T.E.,& Heward,W. L.,2013)。応用行動分析の課題分析において行動を小さな単位に分解する際には、目に見える単位によって分解します。この課題分析の方法に加えて、その行動要素がどのような知識や技能から成り立っているのかを分析した上で、子どもがその活動や学習課題のどの部分につまずいているのか細部で捉えた実態把握を行うことができれば、複雑に見えるスキルのどの遂行部分につまずきがあるのか、より細かい要素で捉えることができ、その情報を基によりよい支援に結びつけられると考えられます(村岡玲子・霜田浩信,2021)。今回は「蝶々結びをする」という行動を課題分析し、14の行動要素に分けて練習を実施しました。蝶々結びの仕方は様々な方法がありますが、最も簡単な2つの輪を作って結ぶ方法を採用しました。課題分析の要素をTable1に示します。本児はまだ蝶々結びをしたことがなかったので、すべての行動要素に支援が必要でした。

Table1
蝶々結びの課題分析

二本の紐を左右の手で一本ずつ持つ。
手を交差してバツ印を作り、手を離す。
右側の紐を持ち上げ、二本の紐の下に通す。
二本の紐を横方向へ引っ張る。
右手で結び目から6cmのところをつまむ。
右手でつまんだところを結び目付近にもっていき、輪を作る。
左手で結び目から6cmのところをつまむ。
左手でつまんだところを結び目付近にもっていき、輪を作る。
二つの輪を交差する。
交差している部分を左手でつまむ。
右側の紐を交差部分の下を通るように前方から押し込む。
右手で押し込んだ紐を3cm引き出す。
右手で右側の輪、左手で左側の輪をつまむ。
二つの輪を横方向に同時にゆっくりと引っ張る。

これらの行動要素を一つ一つ練習し、これまでに12セッションを行いました。本児が負担を感じることがないよう、1セッションでの試行は5回と予め決めて練習をしました。まず、1セッションでは、①~④の練習をしました。お手本を見ながら真似することが難しかったため、身体ガイダンスを用いて行いました。2、3セッションでも、①~④の練習をしました。ただし、身体ガイダンスは行わず、言語教示とモデリング(プロンプト)を用いて行いました。4、5セッションでも①~④の練習をしました。一人で行うことを前提とし、困っている時のみプロンプトを用いて支援し、①~④の動作スキルの定着を図りました。6セッションでは、①~④の復習をしながら⑤、⑥の練習をしました。どのくらいの大きさの輪を作るかモデリングを行いました。「○○君のお耳はゾウさんのお耳だよ。ネズミさんのお耳にしようね」と声を掛けると適切な大きさで輪を作ることができました。7セッションでは、①~④の復習と⑤~⑧の練習をしました。言語教示とモデリングを用いて行いました。片方の輪を持ちながらもう一方の輪を作ることが難しそうでしたが、何度か繰り返すうちに上手にできるようになりました。8、9セッションでは、①~⑧の復習をしながら、⑨~⑭の練習をしました。言語教示とモデリングを用いて行いました。最後に二つの輪を引っ張る時に強く引きすぎてしまい、紐が結び目から抜けてしまうことがあったので、ゆっくりと引っ張ることを意識するよう促すと、蝶々結びが上手にできるようになりました。10~12セッションでは、①~⑭を一人で行うことを前提とし、困っている時のみプロンプトを用いて支援し、①~⑭の動作スキルの定着を図りました。始めの5セッションで①~④の「一重結び」を一人でできるようになり、12セッションで①~⑭の「蝶々結び」を一人でできるようになりました。本児は途中から「今から蝶々結びの練習する」と言って自分から道具を持って来るようになり、自ら課題に取り組む姿が見られるようになりました。一つ一つの手順を少しずつ練習し成功体験を積み重ねられたことが、自ら課題に取り組もうとする動機づけとなり、前向きに練習することにつながりました。今後も練習を継続し、スキルの定着を図っていきます。

 気になる点は、運動において諦めが早い点です。綱引きや相撲で負けそうになる、鉄棒や短縄跳びが上手くできない、シュート練習で失敗する等、思い通りにならない状況になるとすぐに諦めてその種目を止めてしまいます。このような行動は最初から備わっているわけではなく、これまでの学習の失敗経験により誤学習が生じています。誤学習が生じる理由として、目標設定が高すぎる、未学習なものが多い、不得意なことを多くさせている等が挙げられます。本児は、運動自体は好きで「やりたい」という気持ちを強く持っており、楽しく活動しています。しかし、思うようにならないことがあるとすぐに諦めてしまいます。そこで、がんばり続けることの楽しさを感じられるよう支援をしていきます。弊所では、友達との競争だけでなく、自分の力に合わせて跳び箱の練習をしたり、記録会で自分の過去最高記録を超えられるよう挑戦したりする等の個別対応をし、能力の向上につなげています。嫌悪刺激を与えず、できた時にほめたり、上手くできなくても良かった所やがんばった所を伝えたりし、次もがんばろう、もう一回やってみようという気持ちを引き出しています。今後も様々な運動への取り組みを提供し、運動技能、意欲、自発性等を向上させる運動プログラムの効果を最大限に引き出せるよう支援をしていきます。

 本児は様々な活動に積極的に取り組み、大きく成長しています。今後も様々な経験を通して思うようにならなくても挫けない、強くしなやかな心を育み、不適応行動を減らしていきます。また、できたことをほめて長所を伸ばし、楽しく過ごすことができるよう支援していきます。

引用文献

村岡玲子・霜田浩信(2021)「発達障がい児における課題分析に基づく実態把握と支援の検討」『群馬大学共同教育学部紀要』70,145-163

Juri F.