切り替えることや運動エフェクトに参加することができるようになるー応用行動分析による行動レパートリーがある場合の行動変容アプローチー

 通所し始めてから半年ほど経ち、教室にも慣れ、ニコニコと楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、輪っか鬼をしてたくさん走り回ったり、玉入れをしたり、字を書いたり、輪っかを腕でグルグル回したり、2つの輪っかをピラミッドのような形に立てたりして遊んでいます。「○○君、何して遊ぶ?」と尋ねると、言葉で答えることはありませんが、いつも自分のしたいことに必要な物を持ってきて「○○で遊びたい」ということを伝えることができます。また、指導員が「○○しよう」と新しい遊びを提案した時には、その遊びを一緒にして、気に入ると長い間続けています。特に、輪っかを腕でグルグル回す遊びを気に入っており、輪っかの数を増やしたり、回転速度を上げたりするなどし、楽しんでいます。今後も、本児の好きな遊びに入れてもらって一緒に楽しさを共有するとともに、多くの関わりをもち信頼関係をさらに深めていきます。

 コミュニケーションの面では、普段はあまり言葉を発しませんが、「やらない」「イヤ」等の断る意思表示は、言葉で言うことができています。また、公園に出掛けた時や自由遊びの時間等、楽しい気持ちが高まってくると、「一緒にやろう」「もう一回」「どうぞ」「次は先生の番」「見て」等、言葉を発することが多くなります。また、友達と関わりたい気持ちもあり、紙に字を書いて「どうぞ」とお手紙を何人かの友達に渡すこともありました。もらった友達が「○○君がお手紙くれた」と喜んでいると、本児もニッコリとして嬉しそうにしていました。今後も楽しい環境を提供して、本児が言葉を発したくなるような機会を増やし、コミュニケーションを楽しむことができるよう支援していきます。

 運動エフェクトでは、友達と一緒に参加することはまだ難しいですが、本児のスペースを用意して個別に行うと、楽しそうに取り組んでいます。特に輪っか鬼が好きで、たくさん走り回っています。途中で追いかける向きを変えると、「ワー」と言いながら逃げる向きを変え、盛り上がっています。途中で「少し休憩する?」と尋ねても「大丈夫」と言って続けることが多く、体力もあります。また、ボールをバウンドさせてパスしたり、玉入れをしたりする等、ボール遊びも好きで、繰り返し楽しんでいます。今後も様々な運動に参加してもらい、楽しく身体を動かしてもらいます。

 学習の面では、初めの頃は「(宿題を)やらない」と断っていましたが、次第に「一緒に書くか、一人で書くかどっちがいい?」「皆と一緒の机でやるか、こっち(個別に机を用意する)でやるかどっちがいい?」と本児に選択肢を提供すると、どちらかを選ぶ形で取り組んでくれるようになりました。数か月前からは、自分でランドセルを持ってきて皆と一緒に席につくようになり、学習への切り替えがスムーズにできるようになりました。また、公文を始めた頃は1枚目が終わると「もういい」と言っていましたが、最近は3枚取り組むことが定着し、最後まで前向きに取り組めるようになりました。学習を終えた後はハイタッチしながら「がんばったね」と声を掛けると、ニッコリと嬉しそうにしています。今後も、学習のサポートを丁寧に行い、楽しく取り組めるよう支援していきます。

 気になる点は、切り替えることや運動エフェクトに参加することが難しい点です。切り替えについては、学習課題を終了した後は字を書いて遊んでいますが、学習終了時にあいさつのため集まるよう声を掛けられても遊びを止めることができません。また、戸外活動時に「帰るよ」と声を掛けられてもなかなか切り替えができません。運動エフェクトへの参加については、ここまでに経験してきたであろうネガティブな経験によるマイナスのイメージがあること、上手くできない、恥ずかしいという気持ちがあることから、皆と一緒に活動することができていません。通所し始めた頃は、運動に誘っても「やらない」と言って、おもちゃで遊び続けていましたが、少し慣れてくると、本児専用のスペースで指導員と1対1であれば、鬼ごっこやボール遊び等、元気よく運動できるようになりました。しかし、ずっとこのままで良いわけではなく、皆と一緒に運動エフェクトに参加できるようになることが次の目標です。

 ここまでは教室に慣れることを目標としていましたが、教室にも慣れてきたので、今後は集団活動に必要な力を身に付けることを目標とし、支援を実施していきます。具体的には、以下の手続きを用いて、切り替えや運動エフェクトへの参加ができるよう支援をしていきます。1つ目は、確立操作を実施し、適応行動を引き出す土台を作ります。まず、予め行動の重要性を言語化します。「運動前の片付けは、声を掛けられたらすぐに自分でできるようになったね。今度は、学習の終わりの時も切り替えができるようにがんばろうね」「先生と二人で運動していると、走ったり、ボールを投げたりするのが上手で、がんばっているね。今度は皆と一緒にやってみようね」等、本児の良い面をほめながら、次の段階はどのようになってほしいのか、具体的なイメージをもてるように声掛けをしていきます。また、ルール支配行動を用いて、すべき行動をルールとして伝えます。例えば、「勉強の終わりの合図があったら、すぐ(皆の所に)来れるようになろうね」「皆と一緒に運動できるようになろうね」等、すべきことを明確に伝えます。2つ目は、プロンプト(行動を促す補助刺激)を付加し、適応的な行動を引き出します。プロンプトには、言語教示、視覚呈示、モデリング、身体ガイダンスの4種類があります。「あと1分で呼ぶから、来てね」等、行動が起こりやすくなるよう事前に声を掛けておいたり、声掛けの回数を増やしたり、行動が完了するまで見届けたりし、成功体験を積み重ねられるようにします。また、できるようになってきたら徐々にプロンプトを減らしたり、プロンプトの程度を下げたりするプロンプト・フェイディングを行います。3つ目は、ご褒美を準備し、良い行動を強化します。できた時にその都度ほめるだけでなく、トークン・エコノミー法により、がんばった成果を視覚化することで、次もがんばろうという気持ちにつなげます。また、プレマックの原理により、適応的な行動を引き出します。具体的には、本児は字を書くことが好きなので、目標行動を達成できたご褒美に、本児の好む可愛い便箋を渡していきます。達成できた時だけにもらえる特別感から、達成しようとがんばる気持ちを引き出します。

 手続きを行う際に配慮する点は、以下の3点です。1つ目は、本児に合わせて難易度の調節を行います。先日のクリスマス会で行った「サンタのおつかい」は、メモに書いてあるおもちゃを取って来るというゲームでしたが、おもちゃを集めるために、教室の端から端までを何往復もがんばる姿が見られました。友達と一緒に活動に参加できたのはこのゲームが初めてでした。分かりやすいルールだったこと、難しい運動が入っていなかったことが心のハードルを下げ、参加につながったと思います。今後も「このくらいならできそう」と思ってもらえるよう本児に合わせて難易度を調節し、参加を促していきます。また、難易度を調節することによって成功体験を増やし、自己肯定感や自己効力感を高めていきます。2つ目は、一斉指導への指示に対応する力を身に付けてもらいます。行動を変容するには、指示に対応したりしなかったりする部分強化スケジュールではなく、毎回指示に対応する連続強化スケジュールを意識する必要があります。楽しく活動する中、本児への影響性を考慮しながら、一斉指導への指示に対応する力を育んでいきます。3つ目は、動因操作を用います。本児の好む遊びを活動に組み入れ、参加を促します。例えば、本児の好んでいる輪っか鬼や玉入れ、縄を回す遊びを運動プログラムに取り入れ、本児が自分からやってみたいと思えるようにすることに配慮します。

 本児は、学習への切り替えがスムーズにできるようになったり、帰りの準備を自分でできる日が増えたりする等、少しずつ成長しています。今後も良い点をさらに伸ばすとともに、気になる点の改善を図っていきます。

Juri F.