事前の声掛けにより、次の行動にスムーズに移ることができるようになるー行動レパートリーを持っている場合の応用行動分析による行動変容の手続きー

 通所し始めてから半年ほど経って教室にも慣れ、リラックスして過ごすことができています。指導員に関わりを求めることが多くあり、甘えた姿をよく見せるようになりました。これは、教室が安心できる場、落ち着いて過ごせる場になったことの表れとして捉えています。今後も遊びを通して関係をさらに深め、楽しく過ごすことができるよう支援していきます。

 運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組み、がんばっています。ルール理解力があり、初めて取り組む種目でもルールに沿った動きをすることができます。サッカーのパスゲームは、転がってきたボールを止めずに直接蹴り返してパスを続ける遊びですが、ボールが転がってくる場所へサッと移動し、タイミングよく蹴ることができています。初めはまっすぐ蹴り返すことができませんでしたが、何回かパスが続くようになり少しずつ上手になっています。ドッジボールでは、繰り返し練習し、緩やかなボールを落とさずにキャッチできるようになりました。ボールを投げることも練習を重ねることで少しずつ遠くまで投げることができるようになっています。今後も楽しく身体を動かしてもらい、運動スキルの向上を図っていきます。

 学習の面では、学習の準備を自分からするようになり、切り替えが早くなりました。また、分からない所があると自分から質問することができています。漢字の宿題では、以前はぼーっとしてしまうことが多く、とても時間がかかっていましたが、最近は手が止まってしまうことが減りました。本児は元々文字を書くことが苦手でやる気が下がってしまっていましたが、「もうここまで書けたんだね。がんばっているね」とがんばって書いている時にほめたり、「この字、丁寧に書けているね」と本児の書いた字の中で上手に書けた字に注目してほめたりし、がんばろうという気持ちになるようにしています。また、漢字をパーツに分解して言いながら書いたり、「横」「縦」「斜めに3本」というように聴覚プロンプトを直前に提示したりして書字をサポートすると、普段よりも書くペースが上がり、スムーズに宿題を終えることができています。算数の宿題では、計算に時間がかかったり、計算ミスをよくしたりしていますが、計算の仕方は理解しており、自分で解くことができています。今後も本児に合った方法を模索しながら、丁寧に学習支援を行っていきます。

 気になる点は、特定の場面において指示が通らない点です。運動エフェクトの始まりや終わりの整列時に床を這って移動したり、宿題がまだ残っている場合に学習終了の合図があってもすぐに止められなかったり、帰りの準備時に「できません」「手伝ってください」と甘えてとても時間がかかったりします。運動エフェクト中は指示にスムーズに応じることができたり、学校に迎えに行った際はサッと準備をして出てきたりしているため、既に行動レパートリーはもっています。したがって、行動レパートリーをもっている場合の行動変容の手続きを用いて、気になる点の改善を図っていきます。1つ目は、プロンプト(行動を促すきっかけとなる刺激)を増やします。集団への指示だけでは刺激が足りていないため、個別に今何をすべきかを明確に伝え、行動を促します。本児が行動に移すまでプロンプトを増やし、適応的な行動を引き出します。また、できるようになってきたら徐々にプロンプトを減らし、プロンプトがなくても適応的な行動が維持されるようにします。2つ目は、予め行動の重要性を言語化する等、確立操作を行います。確立操作とは、ある特定の好子や嫌子を獲得する行動に影響を及ぼす操作のことです。具体的には、「整列の号令がかかった時にダラダラせず、すぐに並んだ方が印象がいいよ」等の内容を前もって伝えておき、行動の生起を促します。また、整列の号令がかかった時はすぐに並ぶことをルールとして伝え、ルール支配行動による適応的な行動も引き出していきます。ルール支配行動の特徴は、直接経験していなくてもアドバイス等の言語刺激のみで行動が生起することです。つまり、「歯磨きしないと虫歯になるよ」「毎日○○を食べたら健康になるよ」等、「○○したら××という結果が生じる」という随伴性を伴う言葉によって未経験の状態でも行動が制限され、他者からの依頼に応じたり、他者の体験を利用して自分も同じ行動をとったりするようになります。また、周囲の人からの承認で強化されます。問題行動が生じなかった場合に「今日は皆から遅れずに並べたね」「準備が早かったね」等、承認する声掛けを行うと、良い行動が強化され、また同じように行動するようになります。さらに、強化期間を限定すると価値が高まります。「今日も一日がんばったね」と長い期間でフィードバックするよりも、「切り替えができたね」「いつもより早く動けたね」等、適応的な行動をする度にほめる短い期間でのフィードバックの方が好子の価値が高くなり、また良い行動をとるようになります。このように、適応的な行動を引き出して成功体験を積み重ねられるようにし、できたことをほめて意欲を高めます。その際、目標設定を高くし過ぎないことに留意し、ほめる回数を増やします。

 本児は、様々な活動に取り組み、楽しく過ごすことができています。今後も本児の良い面をさらに伸ばすとともに、事前の声掛け等により、次の行動にスムーズに移ることができるよう支援していきます。

Juri F.