ケース・フォーミュレーションを用いて課題を一緒に整理し、適応的に振る舞うことができるようになるーPFスタディの結果から考える支援ー

 明るく活発な性格で、友達と積極的に関わり、楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、挟みドッジボールや走り高跳び、8の字鬼等をして過ごしています。あまり自分から声を掛けられない子に「○○君も一緒にやろう」と誘ってくれることが多く、優しくしてくれます。また、遊び中に自分の提案が通らなかった時の気持ちの切り替えが早くなりました。具体的には、以前は「今から○○というルール追加」と勝手に決め、友達がそのルール変更を認めてくれないと「何でダメなの?」「今の(ルール)だと全然面白くない」と文句を言い続けたり、「皆は僕のことが嫌いだ」と泣いたりしていましたが、最近はそのようなことはなくなり、「じゃあ、(ルールを変更せず)そのままでもいいよ」と多数の意見に合わせ、自分の提案が通らなくても遊びを続けることができるようになりました。今後も友達と仲良く過ごすことができるよう、見守り及び助言をしていきます。

 運動エフェクトでは、どの種目も積極的に取り組み、がんばっています。本児は運動全般が得意で、自信をもっています。最近は、鉄棒で連続逆上がりができるようになったり、短縄の二重跳びが連続で10回以上できるようになったりし、とても喜んでいました。キャッチボールでは、ボールをキャッチしたり、コントロール良く投げたりすることが上手です。長縄しりとりのような二重課題も得意で、最後まで残ることができます。集団遊びでは、ルールに沿って行うことができ、楽しんでいます。チーム対抗戦では、同じチームの子に積極的に声を掛け、場を盛り上げてくれます。ドッジボールでは、積極的にキャッチしたり投げたりし、チームの中心メンバーとなって活躍しています。今後も得意なことをさらに伸ばし、自己肯定感を高めていきます。

 学習の面では、切り替えが早く、集中して取り組むことができています。まだ完全ではありませんが、連絡帳に宿題を書くことや宿題のドリル・プリント等を忘れることが減り、改善しつつあります。公文では、分数のたし算の練習をしています。通分の仕方を理解し、一人でスラスラと解くことができています。今後も、丁寧に学習支援を実施し、できることを増やしていきます。

 気になる点は、自分勝手な発言・行動が多い点、危機意識が低い点、少し嫌なことがあると大げさに反応して泣いてしまう点、負けそうになると弱音を吐き諦めてしまう点の4点です。これらの点を改善するため、以下の支援を実施していきます。

 自分勝手な発言・行動が多い点については、誰かがおやつを食べている時はボールを使ってはいけないというルールがありますが、本児は「おやつを別の部屋で食べれば遊べるのに」と言ったり、まだ食べ始めたばかりの子に「早く食べて」と迫ったり、「(ボールを)持っているだけだからいいでしょ」とルールを軽視した行動をとったりしています。他にも、「○○君がおやつを食べなかったらドッジボールができるのに」のような自分が良ければ他の子のことは関係がないという自己中心的な考えや要求が多く見られます。これらのような自分勝手な発言・行動が生起・維持している原因は、本児の心(自我)の未熟さにあると考えています。そこで、本児の心理状態を把握するため、先日、PFスタディという心理検査を実施しました。田辺ら(1999)は、PFスタディの概要について、次のように述べています。

PFスタディ(Picture Frustration Test)は、24種の日常誰もが経験する欲求不満場面によって構成されています。(中略)PFスタディのテスト場面は、人為的、非人為的な障がいによって直接に自我が阻害されて欲求不満を引き起こしている場面(自我阻害場面、16場面)と、誰か他の者から非難、詰問されて、いわゆる超自我が阻害されて欲求不満を招いた場面(超自我阻害場面、8場面)からなっています。そして、その評定は、24の欲求不満場面における反応語の内容を、1)どんな方向に攻撃をむけているか―他責的(E-A)か、自責的(I-A)か、無責的(M-A)かといった主張の方向に関する次元と、2)それはどんな型か―障がい優位型(O-D)か、自我防衛型(E-D)か、要求固執型(N-P)かといった次元の組み合わせから成る9種類(3×3)と、さらに、超自我阻害場面における2種類の変形を加えた計11評定因子によってなされます(田辺ら,1999,199-200)。

田辺ら(1999)は、PFスタディは欲求不満場面に対する被検者の反応語から、攻撃の方向や攻撃の型を評定する心理検査だと述べています。ここからは、検査状況、形式分析、内容分析、まとめの順に検査結果をお伝えします。

 まず、検査状況についてお伝えします。検査は、検査の負担感を減らすため、口答法で実施しました。所要時間は10分で一般的な所要時間(15分)よりもやや短めでした。検査に対する態度は良好で、やり方の説明をしっかりと理解した上で、すべての項目について自分でサッと考えて答えることができました。検査中、初めは「早く宿題を終わらせて遊びたい」「これをやるなら公文を1枚減らしてほしい」と乗り気ではありませんでしたが、予め必要な時間や問題数等を伝えることで落ち着いて取り組むことができました。

 次に、形式分析についてお伝えします。GCR(集団順応度)の一致率は61%で、標準的な値を示し、自我阻害場面の一致率(7/11=63%)と超自我阻害場面の一致率(4/7=57%)はほとんど変わりありませんでした。攻撃の方向は標準的で、攻撃の型は、障がい優位型(O-D)が平均より1SD以上高く、要求固執型(N-P)がやや低めでした。主要反応は他罰(E)が最も多く、次に自罰と他責固執が多く出ました。他罰は、周囲の人や物に責任を負わせて、非難や敵意を向けること。自罰は、自分自身に責任を感じて、自己非難や謝罪をすること。他責固執は、欲求不満事態の解決を他の人に頼り、他者に欲求充足を求めることです。相手に直接非難や敵意的攻撃を向ける他罰反応数が自罰反応数や他責固執反応数より多いことに特徴がありました。また、因子ではE′とM′が平均より高く、iは一つもありませんでした。つまり、不快や不満を表明したり、強がりや負け惜しみをうかがわせたりするような反応が平均より多く、自ら積極的に問題解決しようとする反応はありませんでした。本児のPFスタディ得点及び平均値をTable 1に示します。

Table 1

PFスタディ得点及び平均値

 他責自責無責障がい優位自我防衛要求固執
本児49%23%28%30%41%26%
平均47%(14)27%(9)27%(10)19%(8)47%(12)34%(11)

カッコ内は標準偏差

 次に、内容分析についてお伝えします。場面と反応の関係では、場面11では、太鼓を叩いていた時に「お母さんが眠れないから静かにして」と注意を受けると、「だって、楽しいんだもん」と言って責任を軽くしようとする反応が表れています。しかし、場面24では、図書館で「汚れた手を洗いなさい」と注意を受けた時に「はい」と素直に指示に従う反応が表れており、規則などを順守する社会的順応性はあると考えられます。場面12では、年上の子から「弱虫だ」と非難され傷つけられれば「そういうお前こそ弱虫だ」と相手に対して反論しており、プライドの高さを示しています。場面15では、階段から転げ落ちて「けがはしなかった?」と尋ねられると「大丈夫」とケガについて完全に否定し、超自我の働きが強く出ています。

 最後に、まとめについてお伝えします。以上のPFスタディの結果から、攻撃の方向は他責型(E-A)で、欲求不満の原因は他者にあるとみて、外に向かって対処する反応を示しています。具体的には、不満を表す、直接的に相手を攻撃する反応が多く表れていました。また、問題解決を他者に求める依存的な傾向だけでなく、自らの欲求充足を強く求める傾向も多く表れていました。攻撃型は障がい優位型(O-D)で、欲求不満が生じた事態への関心が強い反応を示しています。直接相手に向かっての発言ではなく、自分の感情表現にとどまるので、問題解決には至らない抑止された反応です。特に、不平不満の反応が平均より多く表れていました。全体的な反応パターンはE′型(他責逡巡)と考えられます。これは、欲求の阻害を強く指摘して、失望、不快、不満などを表明するパターンです。本児にとって関心のない事柄に対しては許容することもありますが、関心のある事柄には不満を表したり自らの欲求充足を求めたりする傾向があります。これは、本児の普段の様子と合致しています。

 以上の結果を踏まえ、今後は日常的な対話を通してより良いコミュニケーションの取り方をその都度伝えていき、心の成長を促していきます。具体的には、相手はどうなっても構わないというような自分勝手な要求が見られた場合、同じ状況になった際に大多数はどのように考えるかを伝えて適応的な考え方を学んでもらい、認知の変容を図っていきます。その際、本児への影響性を考慮しながら認知の変容を促し、「このように考えた方が自分にとってメリットがある」と思ってもらえるようにしていきます。

 危機意識が低い点については、周囲の状況を確認せず逆立ちや側転をしたり、固いものを投げたりする等、ケガにつながるような行動が多くあります。また、注意をしても注意の受け止めが軽く、同じ注意を何度も受けています。事前に声を掛けると周りの状況を確認し、「○○君、危ないから少しどいて」と声を掛ける等、気を付けることができているので、今後も継続していきます。また、ルールを軽視する傾向があり注意が必要です。固いものを投げてはいけない、棒を振り回してはいけない等の危険防止のためのルールがありますが、本児は「このくらいだったらいいでしょ。どうしてダメなの?」と言うことがよくあります。しかし、「このくらいなら…」を繰り返していくと少しずつエスカレートし、いずれは危険なレベルになることは容易に想像できます。本児は、「○○をしたらどうなるか」行動の結果を想像することを苦手としています。したがって、その都度の対話を通して、認識のズレを減らし、適切に判断することができるようにしていきます。

 少し嫌なことがあると大げさに反応して泣いてしまう点については、友達との関わりの中で嫌なことがあると、少しコーンにぶつかったりボールに当たったりしただけでも大げさに反応し、うずくまって泣いていることがあります。また、負けそうになると弱音を吐き諦めてしまう点については、ドッジボールで負けそうになると、「ああ、もう負け決定だ」とやる気をなくし、寝転がったり正々堂々と勝負しなくなったりすることがあります。これらの点を改善するため、まず、ケース・フォーミュレーションを用いてアセスメントを実施します。ケース・フォーミュレーションとは、本児の気になる行動の成り立ちを説明する仮説を生成する作業です。具体的には、本児に質問しながら、気になる行動が生じやすい状況に対する反応を認知、感情、身体、行動の4つに分けて整理していきます。実際に、上記の気になる点2つについてケース・フォーミュレーションを行ってみると、次のようになります。まず「少し嫌なことがあると大げさに反応して泣いてしまう点」についてお伝えします。きっかけは、友達が自分の提案を受け入れてくれないことです。認知の側面として「自分の思い通りにしたい」という要求を満たすという機能をもっていると考えられます。しかし、実際は周りの状況により自分の要求が通らないことが多いので葛藤が生じ、感情の側面として、イライラやモヤモヤとした気持ちが生じます。その結果、行動の側面として、その後の事態において少し嫌なことがあると大げさに反応しうずくまって泣くという不適応状態になっていると考えられます。次に「負けそうになると弱音を吐き諦めてしまう点」についてお伝えします。きっかけはドッジボールで負けそうになることです。認知の側面として、過去の経験により「どうせ負けるならがんばっても仕方がない」という逃避の機能をもっていると考えられます。しかし、実際は逃避してドッジボールを止めてしまうこともできず葛藤が生じ、感情の側面として、諦めやイライラが生じます。その結果、ドッジボール中に寝転がったり、本来相手を当てるために投げるボールを相手にあげたり、正々堂々と勝負しなくなったりするという不適応状態になっていると考えられます。これらのような不適応状態は、これまでの経験の積み重ねにより身に付いたものであり、新しい経験や新しい行動・思考の獲得を通して改善することができます。そこで今回は、認知行動療法における損得勘定表を使用し、本児が自ら問題行動を改善できるように支援を実施します。具体的な項目として、そのように行動するメリットとデメリットを挙げ、客観的に把握してもらいます。メリットの項目として、泣くことで話を聞いてもらえることがある、主張することで自分の思いが通ることがある、敢えてがんばらないことで負けた時のショックを少なくすることができるがあります。デメリットの項目として、泣いていると友達に弱虫と言われる、泣いていても友達は相手にしてくれない、泣いても問題解決にはならない、不適切な行動をとると先生に注意を受けるがあります。これらの項目について、一つ一つ100点満点で点数をつけ、その後、メリットとデメリットを総合的に判断し、デメリットが大きい場合は、代わりとなる新しい考え方を一緒に考えます。その際、認知行動療法の主要技法の一つである認知的再体制化を用います。認知的再体制化は、「自分はこう考えやすいが、こう考える人もいるんだな」と柔軟な考え方をもってもらうことです。その際に重要なことは、今ある考えを別の考えに置き換えることを目的とするのではなく、抱えている問題にその考え方が機能したかどうかを考えることです。具体的には、以下のように認知の変容を促します。「そんな努力をしても無駄だ」は「努力が報われることもあるだろう」、「頼れる友達はいない」は「友達が活躍して勝つこともあるだろう」、「友達では上手くできない」は「自分よりも友達の方が上手くできることもある」、「負けたら無意味だ」は「負けから学べることもある」、「負けたら悲しい」は「この悲しさは次の目標のスタートになる」、「もう絶対に勝てない」は「わずかかもしれないが勝てる可能性があるかもしれない」、「こうなると必ず負ける」は「こうなっても必ず負けるとは限らない」、「こうなるとどうすることもできない」は「自分ができることに集中しよう」等に認知の変容を促し、本児自身がこのように考えた方が自分にとって得だと感じ、本児自身が自ら認知を変容させていくことができるよう接していきます。このように、本児と一緒にどのように考えれば良いかを検討し、対話を通して適応的な考え方を学んでもらいます。そして、セルフ・コントロール(メタ認知)の獲得を目標とし、本児自身が「問題を自分で解決することができる」「自分の考え方次第で周りの状況は大きく変わる」という認知をもってもらえるよう支援していきます。

 本児は、がんばりたい気持ちが強く、様々な活動に積極的に取り組んでいます。今後も良い面をさらに伸ばすとともに、本児への影響性を考慮しながら認知の変容を促し、気になる点の改善を図り、社会性を伸ばすことができるよう支援していきます。

引用文献

田辺正友・田村浩子(1999).自閉症児の対人関係認知に関する研究―PFスタディによる検討― 奈良教育大学紀要 48,199-208.

Juri F.