Q&A 認知・行動

Q. 思い通りにならない、又は上手くいかないと怒る子への支援方法は?

A. 認知療法を用いて物事の捉え方を少しずつ変え、不適応行動を減らしていきます。認知療法の考え方では、不適応行動の背景には不適応な認知が関与していることが多いとされています。失敗や間違いに過剰に反応したり、怒ったりする背景には、自分にとってネガティブな情報を上手く処理できていない可能性が考えられます。いつも自分の思い通りに上手くいくとも限りませんし、失敗や間違いをしない完璧な人間などいません。こうありたいという願いと、そう上手くはいかない現実との差を認識し、上手くいかなくても受け入れていく柔軟な心を身に付けられると、より適応的に行動することができるようになります。

Q. 認知療法とは?

ベックによって体系化されたもので、認知の歪みを標的として、スキーマ、自動思考の変容を通して問題解決を図る心理療法です。自動思考とは、自分の意思とは関係なく自動的に思い浮かぶ思考のことです。認知療法は、以下の7つのステップに従って実施します。(1)困っていることを明確にします(2)どのような場面でその問題が生じるのか把握します(3)その際に生じている自動思考を確認します(4)その自動思考の感情や行動への影響性を調べます(5)自動思考が適切かどうか評価します(6)適切でない場合、別の考え方ができないか検討します(7)別の考え方の効果を検証します。

Q. 認知療法の進め方は?

A. まず初めに、認知変容後のターゲットを決めます。それは、大多数の同年代の子どもの認知とします。しかし、そのターゲットは目標とするのではなく、おおよその目安とします。また、その差を問題視するのではなく、上手く機能しているかどうか、つまり、その子の困り感が減るかどうかを判断基準とします。そして、認知変容を促していきます。認知の修正を第一の目的とするのではなく、ターゲット行動への変容に対する影響性を確認しながら、少しずつ認知の変容を行っていきます。認知の変容は目標・目的ではなく手段です。認知の変容によって、結果的に上手く機能するようにし、不適応状態を改善していきます。

Q. 認知的再体制化とは?

A. 認知行動療法の主要技法の一つです。「自分はこう考えやすいが、こう考える人もいるんだな」と柔軟な考え方をもってもらうことです。例えば、不適応な行動が生起した際に、どのように考えればよいかを一緒に検討し、適応的な考えの出し方を学んでもらいます。その際に重要なことは、今ある考えを別の考えに置き換えるのではなく、抱えている問題にその考え方が機能したかどうか、そのように考えることで気持ちが楽になったかどうかを考えることです。例えば、「ルールが分からない」「どうしてぼくは分からないんだ」という困り感のある状態に対し、単に認知の変容を目的としたアドバイスを送るのではなく、その子の困り感に機能することを目的したアドバイスを送り、その結果、その子が自ら認知を変容させていくように接していきます。


Q. 友達に悪口を言ってしまう子への支援方法は?

A. 悪口を言ってしまう子の多くは、防衛機制の一つである投影性同一視という心理状態にあります。防衛機制とは、受け入れ難い状況や不快な出来事にさらされた場合に生じる心の葛藤を、無意識的に解消しようとする自己防衛のはたらきです。また、投影性同一視とは、自分の中に抑圧している感情を相手に転嫁することです。例えば、自分は駄目だなと思っていると、他者に対し「あなたは駄目な人」と言います。したがって、友達の悪口や文句は、自己肯定感の低さが関係しています。支援の方法は、その子の得意な部分や適応的な行動に注目し、ほめて自己肯定感を高めていきます。また、受け入れがたい状況や不快な出来事にさらされない環境を整え、安心して過ごすことができるようにします。


Q. 「友達がバカにしてきた」「友達が自慢してきた」と訴える等、物事の捉え方に問題がある場合の支援法は?

A. 論理療法(論理情動行動療法)を通して、適応的に物事を捉えられるよう支援していきます。論理療法では、同じ状況に置かれた人でもその後に生じる結果が異なるのは、A(状況)とC(結果)の真ん中にB(信念)、「物事の捉え方」があるのではないかと発想します。この物事の捉え方が固いと、怒ったり不安になったりしやすいので、その信念を柔らかくするよう働きかけます。その結果、考え方が柔軟になったり、気持ちが楽になったりします。

Q. 論理療法(論理情動行動療法)とは?

A. アルバート・エリスが提唱した心理療法で、ABCDE理論とも呼ばれます。A(activating events)は出来事・状況のこと、B(belief system)は受け止め方・信念体系のこと、C(consequences)は結果のこと、D(disputing)は論駁のこと、E(effect)は効果のことです(Figure 1)。エリスは、同じ状況にさらされた際、人によってその後の行動が異なるのは信念の違いによるもので、不適応行動を変容させるには、行動そのものへのアプローチではなく信念を変えることが必要だと考えました。そこで、信念に対する論駁をすることによって効果が得られる論理療法(論理情動行動療法)を考案しました。

(石隈利紀(2005).援助者のための論理療法入門―子どもとも自分とも柔らかくつきあうために― 日本学校心理学会 5,p.61より)

Q. 論理療法の手続きは?

A. まず、困り感を持つ子どもの自動思考が適切かどうかを、一般的な子どもがどう受け止めるかという観点で評価します。自動思考とは、自分の意思とは関係なく自動的に思い浮かぶ思考のことです。例えば「いつも上手くできないといけない」という固い信念を持っていると、思い通りにならなかったことに執着してしまいます。一方「上手くやりたいけど、いつも上手くできるとは限らない」と物事の捉え方を柔らかくすると、上手くいかないことがあっても、それほど気にならなくなります。自動思考はネガティブな体験による推論の誤りによって形成されます。したがって、子どもが上手くできなくても、それを指摘せず、取り組んだことを褒めていきます。そして、様々な活動の中で、困り感を持つ考え方とは別の選択肢がないか一緒に考え、新しい物事の捉え方を身に付けられるようにしていきます。

Q. 論理療法の手続きで重要な2つの「分ける」とは?

A. 1つは「行動と人間を分ける」ことです。論理療法は、人間全体の善悪を評価しません。その子の行動が適応的であったか、そうでなかったかのみを評価します。例えば、子どもが「友達を叩く」という問題行動を起こしたとしても、子どもを批判するのではなく「友達を叩いた行為は良くなかったよ」等、行動に焦点を当てて声掛けをしていきます。もう一つは「適切な感情」と「不適切な感情」を分けることです。「怒り」は不適切な感情の一つで、対処困難な感情です。「怒り」はあってもよいのですが、「怒り」に左右されてしまうと自分の意見が上手く伝わらないことがあります。そもそも他者に対しての信念は「怒り」を生みやすいとされています。例えば「自分のしたいことに合わせて他者が動いてくれる」という信念を持っている場合、この信念が強すぎると相手がそうしてくれない場合に怒りが生じてしまうため注意が必要です。


Q. やりたくないことを後回しにしたり、苦手なことから逃避したりする場合の支援方法は?

A. ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を導入し、心理的柔軟性の獲得を図ります。具体的には、本児との対話を通して、ACTの心理的柔軟性モデルの1つである「アクセプタンス」の体験を得られるよう支援します。まず、我々人間は心を持つ以上、苦痛を感じることは避けられない。一方、心を持つことで喜びや楽しみを感じることができるということを理解してもらいます。苦痛や喜びが自分自身と密接に関わっていることが理解できたら、苦痛を感じた場合に回避をするのではなく、すべきことに優先順位を決め、一つずつ正しく行動できるよう支援をしていきます。回避行動により状況が良くなることはなく、たとえ一時的に大変だったとしても、すべきことを受け入れ前向きに取り組んでいくことが自分にとって得なのだと感じる体験を積んでもらいます。

Q. ACTとは?

A. ACTは、Hayes,S.C.を中心に確立された臨床行動分析的な心理療法で、行動分析や関係フレーム理論の知見を応用したものです(Hayes,S.C., Strosahl,K.D., & Wilson,K.G.,1999)。ACTによる心理療法は、心理師との会話を通して心理的柔軟性の獲得を図ります。ポイントは、子どもの問題行動を改善することを目的とするのではなく、回避したいものを受け入れながらも生き生きと生活することを目的とします。人はすべてのことを自分の思い通りにすることはできず、誰もが何らか回避したいものを抱えているのが当たり前である。また、回避したいものがあることが問題ではなく、回避したいものから逃れようとすることが問題である。更に、何をしているかは問題ではなく、何のためにしているかという視点を持つことが重要である等の考え方を身に付け、しなやかで強い心を育みます。


Q. 最近接発達領域(ZPD)とは?

A. ロシアの心理学者、レフ・ヴィゴツキーが提唱した理論です。ヴィゴツキーは、教育学は子どもの発達の過去ではなく未来を目指さなければならない。また、未成熟の領域は、成熟しつつある過程の領域であり、子どもの最近接発達領域を成すという概念を提唱しました。例えば、学習者の周りにいる援助者が、課題解決のモデルを示したり、課題解決のために注目すべき特徴を示したりすることによって、子どもはひとりで解決できない、より高次の課題を遂行できる。ヴィゴツキーは、子ども一人で解決できることと、援助をもらって解決できる差を最近接発達領域としました。

Q. 最近接発達領域(ZPD)の実践方法は?

A. 例えば、学習時に感情が高ぶることを減らす支援は、以下の4つの段階に分けて支援をおこないます。第一段階は、指導員が問題を解く所を隣で見ていてもらい、さっと終えられるようにします。第二段階は、指導員と一緒に問題を解く段階です。指導員の出すヒントをもとに、自分で計算してもらいます。第三段階は、間違っている部分を明確に示してもらい、自分で解き直す段階です。どこが間違っているかを考える負担を減らし、取り組みやすくします。第四段階は、一人で解く段階です。間違っている部分を自分で見つけ、訂正することができるようにします。第一段階から第四段階へ徐々に移行し、支援の度合いを少しずつ減らしていきます。一人でできる第四段階を目指し、まずは、第一段階から始めていきます。

Q. 遊びの中ではルールに従うとは?

A. ヴィゴツキーは「子どもの発達における遊びとその役割」において、次のように述べています。「就学前期の子どもは、日常生活においてルールに従えなくても、遊びのなかでは喜びをもってルール(役割)に従う。ここにはルールを楽しみ、喜びとする子どもの心理がある。ルールの認識と喜びの情動は同時に成立している。しかし、二歳児ではどうだろう。二歳児は目の前にあるキャンディーを、遊びのルールに従って扱うことをせず、衝動的満足に従って食べてしまうだろう。就学前期の子どもは、眼の前のキャンディーをもちろん食べたいが、二歳児のように衝動的満足に従うよりも、遊びのルールの下でそれを扱うことの方により大きな喜びを見出すのである(堀村,2013)。つまり、子どもは、遊びの中でルールを学ぶことができるということが言えます。例えば、運動エフェクトで「思うようにならなくても途中で止めない」、戸外活動で「ペアになった相手と話し合って遊びを決める」等のルールをしっかりと意識して守ることができます。

Q. 遊びが最近接発達領域を産出するとは?

A. 遊びの中で、子どもはいつも自分の平均年齢期よりも上位におり、自分の普段の日常的行為よりも上位にいます。このようなことからも遊びの中で喜びの情動が増大するという力動的過程は、最近接発達領域(ZPD)と同義的であるとみなすことができます。そして、それは「成熟しつつある」という過程の内容を表していると考えることができます(堀村,2013)。つまり、楽しく遊べば遊ぶほど子どもは成長をするということです。弊所の「運動も勉強も、活動のすべてを遊びにする」というコンセプトは、先の遊びと最近接発達領域の関係性が基になっています。


Q. 思い通りにならないと怒る子への行動分析的アプローチとは?

A. まず、「思い通りにならなかったり、嫌な思いをしたりしても怒らない」等、行動の重要性を言語化し、予めルールとして伝えます。また、我慢できなくなりそうな時や自分で解決できない時は大人に頼るようにしてもらいます。大人が仲介することで、それぞれの場面の対処方法や考え方を覚えてもらい、徐々に自分で対処できるようにしていきます。また、声がいつもより大きくなる等、問題行動の予兆が表れた場合は、声掛けによる補助刺激を付加し、未然に対応できるようにします。怒ることを我慢できたり、別の方法で回避できたりした場合には、褒めて好ましい行動を強化していきます。


Q. 興奮状態になってしまうのは何故ですか?

A. 興奮状態になる前に、苦手な環境にいつまで晒されるか分からないという不安があるからです。本人の特性により、先のことを予測することが難しかったり、やりとりの量が多いと処理が難しかったり、少しの違いで大きな不安を感じたり、感覚の過敏さがあったりし、不安が高まります。不安が高まると、その不安から逃れたい、不安であることを伝えたい、不安であることに気付いてほしいという気持ちを言葉で上手く伝えられず、気持ちを行動で表します。それでも苦手なものが解消されないと、さらに激しい行動をとるようになります。また、関わる側の特性理解の不足により、周囲が誤った対応をとると行動がさらに激しくなります。

Q. 興奮状態になる子の困り感は?

A. 1つ目は、伝えられないもどかしさです。コミュニケーションの特性により、発信が難しいため、誰にどのように伝えたらよいか分からず、困っています。2つ目は、意味の分からない苦痛です。コミュニケーション及び社会性の特性により、話し言葉の理解、曖昧な表現の理解、目に見えない状況の理解が難しいため、意味の分からないことに対して不安やイライラ感が生じ、心の中がモヤモヤして困っています。3つ目は、見通しのもてない不安や恐怖です。想像力の特性により、変化への対応が難しいため、少しの変化に対しても不安な気持ちになり、その気持ちを上手く処理することができず困っています。4つ目は、感覚の特異性です。想像力の特性により、細部が気になり違いに敏感になってしまうため、いつもと異なる部分があると気になって仕方がなく、困っています。

Q. 興奮状態になる子への支援方法は?

A. 支援方法は「いつ」「どこで」「何を」「どのくらい」「どうやって」「次は」の伝達を工夫することです。1つ目は時間の工夫です。例えば、ホワイトボードに写真等のプレートを貼っておき、終えたら外すという方法で、生活の見通しをもつことができます。2つ目は場所の工夫です。例えば、パーテーションで仕切る、クールダウンスペースを設けるという方法で、場所と活動を対応させて理解を助けることができます。3つ目は方法の工夫です。例えば、歯磨きやお風呂で体を洗う手順を絵で示すという方法があります。4つ目は見え方の工夫です。例えば、見本を用意するという方法で、見るだけで何をすればよいか分かるようにすることができます。5つ目はやりとりの工夫です。伝え合い分かり合うコミュニケーションのために、コミュニケーションの成功体験をサポートします。


Q. 運動エフェクトにおいて、ルールが分からず感情を高ぶらせてしまう場合の支援方法は?

A. ルールが分からないのは経験不足によるもので、経験を積み重ねることで改善することができます。また、様々な種目に一つひとつ取り組むことによって、ルールを理解する力がつき、その結果、直接的学習歴のない種目でも、短時間でルールの理解ができるようになります。よって、子どもには「最初は皆分からないんだよ、でも、一つひとつできるようにすることで、分からないことが減っていくんだよ」と伝え、前向きに取り組むことができるようにします。また、個別にルールを説明したり、友達のしているところ見てもらったりしてルール理解を促し、安心して取り組めるよう配慮します。


Q. 新年度が始まると落ち着きがなくなるのは何故ですか?

A. 新年度が始まり、新しい教室で、新しい先生、新しい友達と過ごすことになり、子どもを取り巻く物質的・人的環境が大きく変化します。それにより不安定となった環世界が子どもにとって安定した環世界になるには一定程度の時間経過が必要です。不安定な時期は、一度できるようになったことができなくなってしまうこともありますが、過程の一つとして温かく見守っていきます。

Q. 環世界とは?

A. 環世界とは「主体と環境が分離されるものではなく、主体は環境に常に包まれており、その環境自体が主体から見えているもの又は感じられるもの」です(山内・高橋,2013)。

Q. 発達的なアプローチとは?

A. コミュニケーションが自発的に促されるような環境ないし場面を用意し、子どもの方が相互行動を開始し、大人は子どものリードに従って、子どもの意図に反応し、子どもの行動を発展させるものです(Wetherby & Woods,2008) 。 この発達的アプローチは、私たちが実践する「楽しい環境を提供することによって子どもの自発的な行動を促す」という療育方針と相通ずる内容です。私たちは、今後も子どもの成長を促進させるために発達的アプローチを実践していきます。また、楽しい環境とは、子どもに合ったものでなければならず、子どもの気持ちを汲み取る努力をしていきます。


Q. 物事を誇張して伝えてしまう子への支援方法は?

A. その子自身はうそをついている自覚はなく、自分をよく見せたい、がんばっていることを伝えたいという気持ちから誇張した発言が多くなっている可能性があります。物事を誇張して伝えてしまうと、友達から「そんなことあり得ない」と否定されてしまったり、うそをついていると思われてしまったり等、友達との関係に良くない影響を及ぼしてしまうため、友達が聞いたらどう思うかを伝えるなど、他者から見た自分を捉えることができるようサポートして自覚を促し、気を付けられるようにしていきます。

引用文献

堀村志をり(2013).最近接発達領域は『可能性の領域』か:発達の力動の観点からの考察 東京大学大学院教育学研究科基礎教育学研究室 39,43-52.

石隈利紀(2005).援助者のための論理療法入門―子どもとも自分とも柔らかくつきあうために― 日本学校心理学会 5,59-72.

岡花祈一郎・多田幸子・浅川淳司・杉村伸一郎(2009).保育における最近接発達領域に関する検討 幼年教育研究年報 31,131-137.

山内弥生・高橋登(2013).小学校入学にともなう自閉症児の学校環境への移行過程―短期縦断的分析― 大阪教育大学紀要第Ⅳ部門教育科学 62,117-132.

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