自閉症児の身体図式の形成と運動イメージの更新に重点を置いた運動支援

 自閉症児によく見られる運動特性として身体の動きがぎこちない、不器用、物や人によくぶつかる、力加減が分からない等が挙げられます。今西健斗・玉井太至・沢田麻鈴(2018)は、自閉症児の運動のぎこちなさや不器用さについて次のように述べています。

自閉症児は中枢神経系に機能不全が推測され,感覚入力に対する異常な反応と姿勢調整の未熟さに加えて運動のぎこちなさや不器用さが指摘されている.運動のぎこちなさや不器用さは,運動イメージが問題とされており日常生活動作の獲得には運動イメージの獲得は不可欠であると考えた.(p.94)

私どもは毎日、自閉症特性のある子ども達に運動指導をしています。その中で、単に練習の時間や回数を重ねるだけでは運動技能が向上しないことを感じています。上記の運動のぎこちなさや不器用さは運動イメージと関係があるという知見を弊所の運動エフェクトに応用します。今西・玉井・沢田(2018)は、運動学習に繋がる運動イメージの更新について次のように述べています。

一般的に子どもは,自己の身体に意識を向けた運動課題により,身体と外界との関係性から筋感覚の変化を感じとる.自閉症児は,感覚の特異性により身体図式が確立しておらず,運動イメージの未熟さが出現する.そのため今回,自己受容感覚入力により,運動イメージの基盤となる身体図式の形成が促された.さらに運動イメージの中でも筋感覚的イメージを想起させることは,運動学習に繋がるとされている. (p.95)

上記の知見より自己受容感覚の入力及び筋感覚的イメージを想起させる運動を強化します。具体的には、バランスをとる等自己の身体に意識を向けた運動課題に取り組みます。平均台を渡る、片足で立つ、バランスを崩すように足を大きく振る、上半身と片足を床と平行にして飛行機のポーズをとる等、不安定な状態で自己受容感覚の入力及び筋感覚的イメージを想起させます。また、ラダーやフープの上を歩いたりジャンプしたり、異なる高さの台を移動したりする等、道具を使用し多様な方法で運動トレーニングを実施します。今西・玉井・沢田(2018)は、身体図式の形成について次のように述べています。

身体描画では,4歳児になると体幹が描かれ始めるが手足の長さや太さなど,細部にわたるイメージ能力が不十分であるとされている.また松田らは,5歳児までに自己の身体イメージの向上とともに,運動イメージが向上すると述べている.このことから,5歳までに末梢部位における身体図式が明確となり,末梢部位を含んだ運動イメージが獲得されるのではないかと考えた.(中略)4歳以上の自閉症児には自己の身体を意識した運動課題により運動イメージを更新したことで,運動学習へ繋がり日常生活動作が向上すると考えた.また4歳未満では,身体の末梢部位における身体図式が未熟であり,明確な運動イメージを更新することが困難であると考えられる.そのため4歳までに四肢末梢の筋,腱,関節から固有受容感覚入力を行い,身体図式を形成することが必要であると考える.(p.95)

4歳未満は手足の長さや太さなどの身体図式が不十分であるため運動イメージが向上しない。また、5歳児までに自己の身体イメージの向上とともに運動イメージが向上する。これは、スキャモンの発育パターンの時期とも一致します。スキャモンによる臓器別発育パターンでは、神経系は5歳児で80%パワー、一般系は40%パワーです。幼児期は、バランスをとる、機敏又は器用に動く経験ができる運動に適時性がありますが、筋力系及び持久系には適時性がありません。したがって、4歳未満の子には、身体図式を形成するため固有受容感覚の入力を行うことに重点を置き、運動トレーニングは楽しむこととします。固有受容感覚は位置覚(身体各部の位置)・運動覚(運動の状態)・抵抗覚(身体に加わる抵抗)・重量覚(重量の感知)の4つです。この感覚があることで、目を閉じた状態でも指と指を合わせられたり、おはじきを弾く時や物を持つ時の力の入れ具合を調節できたりします。机を運ぶ時はギュッと力を入れたり、積み木を積む時はゆっくりと動かしたり、箸で豆腐を持つ時は優しく挟んだり、コップに水を注ぐ時はそっと傾けたりすることができるのも固有受容感覚がはたらいているからです。固有受容感覚は、相撲、登り棒、ジャングルジム、鉄棒にぶら下がる、少し重い物を運ぶ等、ギューッと力を入れたり重さを感じられるものを持ったりすることの方が入力されやすいとされています。これは、抑制系を身につけるには興奮系を発達させる必要があることと同じ仕組みです。優しくゆっくり動作するにはギューッと力を入れる経験が必要なのです。そして、4歳以上の子には、身体図式の形成ができる固有受容感覚の入力を行いながら運動トレーニングを実施します。感覚の特異性により身体図式が確立しておらず運動イメージの未熟さが出現している場合は、身体図式の形成に重点を置き、身体図式が確立されたことを確認した上で運動トレーニングに重点を移していきます。

引用文献

今西健斗・玉井太至・沢田麻鈴(2018)「自閉症児は運動イメージの獲得により日常生活動作が向上する」『四国理学療法士会』40、94-95

Juri F.