書字支援を実施し、書く負担を減らしてできる範囲で取り組むことができる

 

 明るく人懐っこい性格で、指導員や友達と関わりながら楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、マグネットブロックやカプラで遊んでいます。マグネットブロックでは、宇宙船や恐竜の家を作っています。三角形のブロックを組み合わせて螺旋階段を作ったり、宇宙船らしい外観になるように部屋の形を工夫したりしています。作った後には、「ここはエンジンルーム」「ここが入り口で、ここはご飯を食べる所」等、作った物について細かく教えてくれます。また、恐竜で遊んでいる友達に「恐竜の家できたよ」と呼びかけて誘い、一緒に遊んでいます。カプラでは、高いタワーを作ることが好きです。そっと積み上げていくことが上手で、自分の背と同じくらいまで高く積み上げることができます。また、友達のしたいことに合わせてあげたり、自分のしたいことを伝えたりし、友達とトラブルになることなく、仲良く過ごすことができています。運動の面では、どの種目にも一生懸命取り組み、がんばっています。ルール理解力があり、ルールに沿って楽しむことができています。ドッジボールでは、すばやくコート内を移動し、ボールをよけることが得意です。また、以前はボールが当たると途中で止めてしまうこともありましたが、最近は気持ちを切り替え、そのまま続けられるようになりました。学習の面では、学習の時間になると自分でランドセルを自分の席の所まで持って来るようになりました。この半年間で、学習の時間に席に着く習慣が身に付きました。

 気になる点は、書くことが苦手な点です。書くことに対する嫌悪感があり、宿題をやらない、テストで答えを書かない等の問題が生じています。本児のもっている力を十分に発揮することができておらず、評価も実際より低くなってしまっています。日本の学校では、書くことが重要と考えられており、板書を写す、練習問題を解く、テストをする、作文を書く、自分の意見をまとめる等、学校生活の半分以上の時間で書くことが求められると言われています。また、小学校低学年の約10人に1人が書き困難を抱えているとされている中、文字を書くことが前提とされ、正確な板書を求めたり、他の子と同じように書かせようとしたりする指導が未だ多いのが現状です。本児のように、知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み書きが極端にできない場合、周囲から理解してもらうことが難しく、「怠けている」「努力が足りない」「わがままを言っている」と誤った見方をされてしまうことがあります。そして、周囲に理解されないまま不適切な関わり方が続くと、その子自身も「自分は努力が足りない」「自分はダメだ」と考えてしまうようになり、自信をなくしてしまう場合があります。このような二次障がいを生じさせないような関わり方をすることが重要です。そこで、本支援計画では、「書き」について、発達の目安、支援方法についてお伝えします。

 書きの発達について、平林ら(2013)は、書字パターンの発達的変化について次のように述べています。

パターンA「粒書き」は、書字スパンサイズ(一度に書いている文字数)が1~2文字です。パターンB「まとまり書き」は、書字スパンサイズが3~9文字です。パターンC「連続書き」は、書字スパンサイズが10文字以上です。(中略)1年生では「粒書き」の割合がおよそ4割だったのが、2年生になると「まとまり書き」割合が増え、「連続書き」が現れます。また、学年が上がると「粒書き」の割合は減り、「まとまり書き」「連続書き」が増えています。しかし、2%程度の子どもたちは高学年になっても「粒書き」に残留しています。(中略)粒書きの段階は文字を書いている時間(運動時間)と停留時間の両方が長いという特徴があり、書字運動が自動化されていないもしくは、書字運動が遅いといった運動負荷が高い子どもたちが該当しています。(中略)一方、「連続書き」では、書字運動が自動化し、目と手の協応を必要としなくなっていることを示唆しています。(平林ら,2013,17-19)

 

平林ら(2013)は、書字スパンは学年が上がるにつれて増えていくこと、また、粒書きの段階では運動時間も停留時間も長いことを示しました。粒書きは、1文字ずつ見比べながら書いている状態で、書字運動が自動化されておらず、文字を見る時間も書く時間も長く、粒書きの段階の子どもたちの「書くこと」に対する負担は大きくなっています。低学年の時期は書く量も少ないですが、学年が上がるにつれて書く量も増え、負担はどんどん大きくなってしまいます。本児の書くことへの嫌悪感も、負担の大きさが人並ではないことが背景にあると考えています。そこで、以下の支援方法を用いて、書くことに対する負担感を減らし、書くことに取り組むことができるよう支援していきます。具体的な支援の手続きとして、以下の2点を実施します。1点目は、音声刺激によるサポートです。正反応の基準に該当する線分を書く直前に、音声言語によって正反応の基準を提示します(須藤ら,2016)。まっすぐ、横、左斜め等、線の角度について言及し、聴覚プロンプトを直前に提示することで書字をサポートします。2点目は、ベストプラクティスをお手本にします。本人の記した正反応の文字を視覚プロンプトとして代わりに提示します(須藤ら,2016)。本人が書いた字の中から一番きれいに書くことができている文字を随時お手本にしていきます。この手続きは、お手本の字よりも自分の字の方が真似しやすいため、効果があります。書字が苦手だからといって全くやらないと、できるようにはならないので、量の調整、取り組んだことに対する称賛等、動機づけを高めて少しずつ取り組むことができるよう支援し、「今日もがんばったね」と良い経験で終わることができるようにしていきます。

 本児は、教室に馴染み、生き生きと過ごすことができています。今後も学習面のサポートを行い、できる範囲で取り組んでもらうことで、学習習慣を身に付けることができるようにしていきます。

引用文献

平林ルミ・河野俊寛・中邑賢龍(2013).デジタルペンを用いた小学生の書字パターンの発達的変化の検討 発達心理学研究 24,13-21.

須藤邦彦・宮野玲子(2016).通級指導教室における平仮名の書字に困難を示すLD児に対する支援の検討―エラーパターンに沿った数量的な判読性の評価基準を活かした支援の効果から― 行動分析学研究 31,15-29.

Juri F.