対話を通じてマインドフルネスのスキルを身に付ける

 明るく人懐っこい性格で、自分から様々な話をしてくれます。家族で出掛けたことや習い事のこと、電車のこと等、とても楽しそうに話してくれます。自由遊びの時間は、以前は一人で遊んでいることも多くありましたが、最近は友達と一緒に遊ぶことが増えました。また、ブロック等の座って行う遊びよりも、キャッチボール等の動く遊びを好むようになり活発になりました。友達と積極的に関わる中で、大きな声も出るようになり、元気よく過ごしています。

 運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組み、がんばっています。最近は見学することがなくなり、しっかりと参加することができています。繰り返し取り組んでいるバランスでは、あまりできる子のいない片足屈伸ができるようになり、とても嬉しそうにしていました。長縄しりとりでは、跳びながら考えることができるようになり、最後の方まで残れるようになってきています。跳び箱では、両腕でしっかりと身体を支えられるようになり、跳び方が上手になりました。集団遊びでは、ルールの理解力があり、ルールに沿って楽しむことができています。「鬼やりたい人」「外野やりたい人」と尋ねると自ら挙手するようになり、積極性が高まっています。特にドッジボールでは、ボールをキャッチしたり遠くに投げたりすることが上手になり、自信をもっています。

 学習の面では、分からない部分を自分から質問し、がんばっています。公文では、わり算の筆算ができるようになってきました。解き方の説明を見ながら次の問題を自分で解こうとする姿が見られるようになり、少し難しい問題にも挑戦できるようになってきました。英語では1日分の課題を終えられるよう、集中して取り組むことができています。繰り返し発音練習をし、少しずつ一人で読めるようになってきています。

 気になる点は、苦手なことや好きではないことを回避する傾向が強い点です。具体的には、漢字の宿題をやりたくないからと寝転がっていたり、帰りの準備にとても時間がかかったり、運動がうまくできないとやる気をなくしたり、「何にもやりたくない」と無気力になったりしてしまいます。このような状態では、やりたくないことを避け続けて生活の質が低下し、さらにやりたくないことが増えていく負の循環に陥ってしまう可能性があります。そこで本支援計画書では、苦手なことや好きではないことを回避することの問題点及びそれを改善するための支援についてお伝えします。

 まず、問題点についてお伝えします。苦手なことや好きではないことはあまり気が進まないという気持ちは誰もが感じるものですが、それをしなければならない、それをした方が自分のためになる等の気持ちによって、やりたくないことにも立ち向かうことができます。しかし、本児の場合、やりたくないことを避けたいという気持ちがあると、その気持ちを上手く処理することができず、回避してしまいます。また、回避を繰り返している間に、不快な私的出来事を無くすことができないかという思考に発展し、さらに回避するようになっているようです。不快な私的出来事とは、本人であれば観察可能な現象のことで、例えば、やりたくないと思うと体がだるくなること等を指します。このような状態が続くと、生活の質を低下させることにつながります。問題は、不快な私的出来事そのものではなく、それを回避しようとすることです。回避すればするほど、それとは両立できない適応行動が減ってしまいます。

 次に、問題点を改善するための支援についてお伝えします。回避行動とは両立せず、適応行動と両立する私的出来事に対する新しい代替行動を獲得してもらいます。具体的には、アクセプタンス、脱フュージョン、今この瞬間への柔軟な注意といったマインドフルネスのスキルを身に付けてもらいます。アクセプタンスとは、不快な私的出来事があっても回避せず、そのまま体験することです。脱フュージョンとは、不快な私的出来事に過剰に反応することを減らすため、捉え方を変化させることです。今この瞬間への柔軟な注意とは、不快な私的出来事のみに囚われず、別の出来事にも意識を向けることです。マインドフルネスは、今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに囚われのない状態でただ観ること(日本マインドフルネス学会)とあります。まずは問題行動に対して機能分析を実施し、今までの行動を変化させるための質問、「やりたくないことを避けた結果、よくなりましたか?」という質問を行います。「宿題をやらず、一旦は楽をしたが、後日やらなかった分をまとめてやらなければならないことになり大変だった」等、私的出来事のコントロールは困難で、回避することにより適応行動が阻害されることを感じてもらいます。対話を通じて、回避行動により状況が良くなることはなく、すべきことを受け入れ前向きに取り組んでいくことが自分にとって得なのだと感じてもらいます。そして、問題は不快な私的出来事ではなく、回避しようとすることだと認識してもらいます。

 本児との対話を通じて、苦手なことそのものが問題ではなく、苦手なものから逃れようともがくことが問題であること、何をしているかではなく何のためにしているかという機能の視点が重要であること等のマインドフルネスのスキルを身に付けてもらい、適応的に行動することができるようサポートしていきます。

Juri F.