Myersの認知・行動アプローチのモニタリングスキル指導により、聞き取りやすい速さで話すことができるようになる
素直で人懐っこい性格で、友達や指導員と積極的に関わり、楽しそうに過ごしています。自由遊びの時間は、キャッチボールや挟みドッジボールをして遊んでいます。ボールを投げることに自信をもっており、ほぼ毎回楽しんでいます。また、車の中でドッジボールの話題になることが多く、「ぼくの球、速くなった?見えなかった?」と尋ねたり、「どうしたら○○君みたいに速い球が投げれるのかな」「〇年生になったら、ぼくも○○君みたいになれるかなぁ」等、強い球を投げる友達への憧れを口にしたりしています。他には、走り高跳びをして遊ぶことがよくあります。以前は怖がって、ひもの直前で急停止していましたが、低めの高さから挑戦して跳ぶことに慣れてくると、元々怖がっていた高さでも思い切って跳ぶことができるようになりました。今後も友達との良い関係や楽しく身体を動かす習慣を維持できるよう支援していきます。
戸外活動では、「今日はどこに行くの?」と、様々な場所へ出掛けることを楽しみにしてくれています。グループ活動では、同じグループの子と離れないよう意識することができており、仲良く遊んでいます。大抵は他の子の行きたい所に合わせてあげることが多いですが、最近は「こっちに行きたい」と主張することも出てきています。公園では、様々な遊具に挑戦できるようになり、より楽しめるようになりました。以前は、大きな遊具は「怖いからやめとく」と言うことがよくありましたが、友達がお手本になったり、指導員が手を貸したりしながら挑戦しているうちに自信がついたようで、今では、初めから怖がらずに楽しめることが多くなりました。今後も様々な経験を積み重ねてもらい、楽しく過ごしてもらいます。
運動エフェクトでは、どの種目も一生懸命取り組み、がんばっています。ラダートレーニングでは、すべての動きを一人で正確に行うことができるようになりました。また、集団遊びのルール理解力が伸び、初めて行うこともすぐに順応し、ルールに沿って楽しめるようになりました。ドッジボールでは、勢いよくボールを投げることができ、相手を当てることができることも多く、自信をもっています。いつも積極的に参加し、楽しんでいます。8の字鬼や高鬼では、好きなように動くのではなく、鬼の隙を見つけて素早く移動することが上手になり、捕まることが減りました。今後も楽しく身体を動かしてもらい、体力や運動スキルの向上を図っていきます。
学習の面では、切り替えが早く、宿題や公文、九九の練習、音読等、その日に取り組む課題をサッと済ますことができています。集中力の持続時間も長く、落ち着いて取り組むことができています。また、分からないところは自分から質問し、がんばっています。今後も丁寧に学習支援を行い、さらに力を伸ばしていきます。
気になる点は、早口で聞き取りづらい点です。お話することが大好きで、様々なことを話してくれますが、部分的に聞き取ることができた言葉から話している内容を推測して会話をしたり、何回か聞き返して確認したりしています。ここまで、ゆっくりと話すことを意識するよう声掛けをしてきましたが、声掛けの直後はゆっくりと話してくれるものの、すぐに元に戻ってしまいます。本児も相手に上手く伝わらないもどかしさを感じており、早口を改善することによって、コミュニケーションをさらに楽しむことができるようになると考えられます。そこで、認知・行動アプローチによるセルフモニタリング指導により、聞き取りやすい速さで話すことを目標とした支援を実施していきます。
Myersの認知・行動アプローチは、セルフモニタリング機能を用いた指導を基礎としたうえで発話速度のコントロールを実施するもので、発話速度や症状改善の動機が成人よりは低いと推測される児童に適した指導法とされています(宮本ら,2022)。ここからは、具体的な支援方法及び手順についてお伝えします。まず、発話速度上昇を視覚的に示します。具体的には、表裏に「はやい」「ふつう」を記した団扇を用意し、通常は「ふつう」の側を本人に見えるように提示し、速い瞬間に「はやい」の面に回転させます(宮本ら,2022)。本児自身、早口になっているという自覚はないため、その時々の状況を視覚的に分かるようにすることで、現在の自己の状態についての気づきを促していきます。次に、発話速度の評価を行います。認知・行動アプローチでは、発話速度のコントロールを促す土台としてモニタリングスキル指導を行います。日常会話を録音したものを書き起こし、逐語録にしたものを見て、録音を聞きながら速さを5段階(1点:速すぎる、2点:速い、3点:ふつう、4点:遅い、5点:遅すぎる)で評価します。本人のみでなく、指導員も同時に評価を実施します。(宮本、2022)。本人の評価と指導員の評価の差を知り、その差を縮めていくことによって、自分の発話速度を客観的に捉えることができるようになります。モニタリング機能が十分に機能することが確認されたうえで、実際に話す速度を変えて話す練習をします。Myersの指導法では、さまざまな速さに調節ができるようになることを目指し、極端な速度も含んでいますが、本人には得点が3点より高くなることを目指して会話を行うように促します(宮本,2022)。会話を行う際には、相手の話した速さにつられて、相手と同じような速度で反応する傾向があるので、ゆっくりとした速度で質問をすることに留意します。それから、ターンテーキングを用いた発話速度低下指導を行います。ターンテーキングとは、「話す順番の交替」のことです。発話速度の速さがターンテーキングの生起率に影響し、早口の人はターンテーキングが苦手であることも報告されています(宮本,2022)。したがって、詳細を一方的に話し続けるような会話ではなく、ターンテーキングの回数を意図的に増やすことを意識して会話をしていきます。具体的には、質問と答えが1ターンになるような会話を設定し、一文一義のようなシンプルな会話構成になるようアドバイスしていきます。最後に、朝礼時に行っている時事の発表やShow & Tellの機会を利用し、プレゼンテーションをしてもらいます。この目的は、ここまでに練習した話し方での伝達を行うことで、発話内容が聞き手に伝わるかどうかを確認するためです(宮本,2022)。練習したことが実践の場で生かせられるか練習効果を確認するとともに、練習の成果を適切にフィードバックし、次につなげていきます。以上お伝えしたように、認知・行動アプローチによるセルフモニタリング指導により、聞き取りやすい速さで話すことができるよう支援していきます。
本児は、様々な活動に積極的に取り組み、ぐんぐん力を伸ばしています。今後も本児の良い面をさらに伸ばすとともに、話し方の改善に向けて練習を実施し、よりコミュニケーションが楽しめるよう支援していきます。
引用文献
宮本昌子・舘田美弥子・深澤葉月・飯村大智(2022).非流暢性頻度が低下した早口言語症の症状を示す児童の1例 音声言語医学 63,132-142.
Juri F.